二十二【入口】(2021/12/22)
ノーエを背負って森を抜けたタンザは、手前の平地に父母の姿があるのを見つけほっとした。
「よかった、来てくれてて。さすがにこの状態のルー一人ここ置いて戻るの心配だったからさ」
「ノーエちゃんも見つかってるのね?」
「いる。無事。シュリンが一緒についてる。ノーエとルー二人一緒に連れては来れなかったから」
おかげでお互い離れることを怖がったノーエとルーには散々泣かれたのだ。
それでも双子は自力では歩けそうになかったし、あの不安定な足場ではシュリンにどちらか一人を任せるのも無理そうだった。
言い聞かせて、まずルーだけ連れてきた。
首に縋り付いたまま泣きつかれて眠ってしまったルーの小さい身体を、タンザはユノに預ける。
一緒について行くと言った父を伴って、タンザは森に戻った。
「やぁ。中に入ったのは初めてだな」
クマは夕日が横から差し込む森の中を見渡しながら、タンザの後に続いた。
「というか、神樹の方じゃないんだね。そっち?」
「こっち。てか、何急に。なんで知ってんの。初めてなんでしょ?」
足早に急ぎながらもタンザが不審に思って聞けば、父は突き出た枝に身を屈めたところだった。
「ううーん。まぁ、昔からここに女の人がいるのは知ってたからね。神樹というか、そっちの方向と違うなって思っただけ。あれがシュリンちゃんだったのかは、わからないけど」
「は?」
「あぁ、本当に入ったこともないよ。そもそも入口なんて見当たらなかった。今は壊れて、そもそもなくなっているみたいだけど。タンザ、あれでよく見つけられたねぇ」
「……見つけるも何も、普通に入れたけど?」
「へぇ。すごいね、お前」
「てか、グーナ婆も、そんなこと一言も言ってなかったけど?」
「まぁ、気づくものは人によって違うさ。それに母さんには言ってない。父さんに——タンザのじいちゃんにそれ以上言うなってすごい剣幕で怒られたからね。前の王朝には、もう関わらせたくないって。いやぁ、怖かったなぁ」
お前が関わってるって知ったらじいちゃんものすごく心配しそうだねぇ、とクマはのんびり言った。
「シュリン、ノーエ。ごめん、遅くなった」
タンザが駆け寄った時、ノーエはシュリンの膝に縋り付いて眠っていた。
なんともなかった? とタンザが聞けば、シュリンは首を振るう。
クマが眠るノーエをひょいと背負いあげた。
「さ、急いで帰ろう。じき暗くなる。タンザはシュリンちゃん手伝ってあげな」
タンザは頷く。
手をついて立ち上がったシュリンは、先に歩き出したクマを追いかけた。
「クマさん」
「やぁ。珍しいねぇ。シュリンちゃんから近寄ってくるなんて」
眠るノーエの顔を心配そうに見つめるシュリンに、クマは目を細めた。
「大丈夫だよ。泣きつかれただけだ」
「……わたし、ノーエちゃんとルーちゃんのお母さんに謝りに行きます」
「ううーん。それはどうかなぁ? ひとまず今日は、おれとユノちゃんで送り届けて事情を説明するから、シュリンちゃんはタンザと
「でも」
「この子らの親御さんは、シュリンちゃんも知ってるんでしょ。レーヌさんが探しにきたってユノちゃんが言ってたから、シュリンちゃんが二人をここに連れてきたわけじゃないってのも知ってる。
でもだ。二人が
だから今日はダメ。代わりに伝えておくから、シュリンちゃんは帰んなさい」
ね、と諭され、シュリンはその場に立ちつくした。
歩みを止めずにぐんぐんと進むクマの背で、ぐったりと眠る小さな友人を見つめる。
後ろで聞いていたタンザは、「帰るよ」とシュリンの背を叩いた。
「わたし」
手を引かれながら、シュリンは口を震わせる。
「ノーエちゃんとルーちゃんに怖い思いをさせてしまいました」
あんなに泣かせてしまいました、と足元の瓦礫につまづきながら、シュリンは歩く。
「ノーエちゃんとルーちゃんのお母さん、ここは危ないから近づいたらダメと言ったって、二人とも言っていたのに」
「そうだね」
「わたし、お化けはいなかったって言ってしまいました。ここで眠るのも……とてもあたたかい場所だったって。光がいっぱいで綺麗でしたよ、って。眠る前も、あの方が来ない日には……神樹の枝が鈴を鳴らしてくれて、とてもよい音なのですよ、って言って、二人が喜んでくれたから、わたし……どうしよう」
そうだなぁ、とタンザは頷きながら、夕日の明かりを透かす木々を見上げた。
「今日は無理かもしれないけど、落ち着いたら謝りに行こう。ね。ちゃんと謝りに行けるから」
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