第11話

「おはよーおはよーおはよー」

 

 僕は口を動かす。


「おはよーおはよーおはよー」

 

 何度も。何度も。

 同じ言葉を口にする。


「おはよーおはよーおはよー」

 

 手を振りながら。

 

 僕は学校に通い始めて早一週間。

 僕はこの一週間の中で一回たりとも授業を受けていない。

 なぜか。簡単だ。言わなくても分かるだろう。

 女の子が僕に慣れてくれないと、まともな学校生活を送れないのだ。女の子たちには僕に慣れて貰う必要がある。

 そのための行動として、僕は毎日、校門が見える学校の三階の空き教室の窓から手を振りながら挨拶しているの。

 僕がやっていることはそれだけじゃない。他にも色々ある。

 学校内の放送は全て僕が担当しているし、オンラインの形で授業すらしている。担当教科は道徳。男の子の扱い方について授業している。生徒が授業をしている。なんとシュールで可笑しいのか。

 果てにはキーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーンのチャイムをなぜか僕が口で言っている。

 これだけのことをしてもまだ慣れてくれない。泣きたくなる。

 

 まだマシにはなってくれているけど。

 一週間絶食した時にエサを目の前にした野生の動物から6日間絶食した時にエサを前にした野生の動物くらいには進歩している。これでも、重要な。とても大事な進歩だ。

 千里の道も一歩から。塵も積もれば山となる。

 あぁ、実にいい言葉だ。

 本当にいい言葉だ。

 涙ちょちょぎれそうになる。


「キャーキャーキャーキャー」

 

 ものすごいくらいの絶叫に学校が包まれている。

 絶叫を上げているのは学校の生徒だけじゃない。この町の女性たちから県内、県外、国外まで。

 とんでもない人口密集度だ。信じらねぇッピ。

 誰も学校内に入っていない。校門の内側は生徒たちで、校門の外側はこの学校とは一ミリも関係ない人たちで埋め尽くされている。


「よし」

 

 朝のHRが始まる15分前、僕が立ち上がり、窓際から離れる。

 僕がいなくなると同時に、生徒たちがみんなきちんと整列して学校に入っていく。その動きはプロさながら。僕の前で喧嘩はできぬ!その思いから来ているのだろう。僕が授業で目の前で殴り合い、蹴り合い、喧嘩が起きたらドン引きするって話したから。

 僕の発言一つが世界を動かす。

 ……この発言が冗談にならないのが、一番の冗談だ。信じられない。


「ふー」

 

 後は放送室に行って放送をしないと、だ。

 僕は学校生活のほとんどは放送室で過ごしている。もはや放送室は僕個人の部屋となっているくらいだ。

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