第7話

「……あぁ……いいわぁ」

 

 神無月の酷く色っぽい声が僕の頭を揺らす。

 ……高校生の色気じゃない。

 放課後。

 神無月がゲーム部の部室で怪我を負っている僕を見て言った最初の言葉があれだ。怪我を負っている人間を見て、いいわぁなんて正気の沙汰じゃない。怖い。

 僕はこのゲーム部に来る時、色々あって膝に怪我を負ったのだ。膝から血がダラダラだ。

 

「……だ、大丈夫ですか!?」

  

 そんな神無月とは対象的に僕に優しい水面が駆け寄ってきてくれる。

 そうそう。その対応が正しいから。


「直ちに……」

 

 ペロペロ

 水面が四つん這いになり、犬のように出血している僕の膝を舐める。


「???」

 

 僕は頭がフリーズする。

 ナニヲシテイルノコノコハ?


「ちょっ!やめい!」

 

 僕は急いで水面から離れる。

 全然対応正しくなかったよ!?意味がわからん!なんで舐める?


「な、何をしているの!?」


「え、いや、私は奴隷として犬のように舐めて治そうとしたんですが……」


「いや、わからん!」

 

 奴隷?犬?

 僕はこんなデケェ犬を飼った覚えもなければ、奴隷貿易に手を出した覚えはない。


「そんなで治るわけがな……治っている」

 

 ぽーん


「……え?」


 ???

 僕の頭が真っ白になる。

 さっきまで僕の膝は出血していた。でも今は出血していない。

 ……ん?

 え?舐めた。治った。

 え?ん?ほ?


「……どうなっているの?」


「奴隷としての最低限のスキルです!」


 ……え?

 奴隷になるには舐めて傷を治せるような超能力が使えるようにならないといけないの?どういうことなの?

 僕の頭は真っ白だ。

 いや、考えるな。

 考えても無駄だ。

 そうなっている。つまり、そうなるのだ。

 奴隷は舐めたら傷を治せるんだ。うん。


「ありがとう。治してくれて」

 

 僕は考えるのを止め、水面に労いの言葉を投げかける。


「助かったよ」


「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。奴隷でしか無い私にそんなお優しいお言葉を……」

 

 水面は何故か蹲り、泣き出す。

 ……はっ!考えるな!

 僕が考えるのを止めていると、部室の扉が開けられる。


「やっほー男の子ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


「な、な、な。なぜこんなところに男のがいるのだ!?」


「ピャァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 新しく部室に入ってきた二人の叫び声と、僕の叫び声が奇跡のハーモニーを生み出した。

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