第4話

「えーえー皆さん」

 

 僕は担任の先生の声を廊下で聞く。


「私から男の匂いがするでしょう」

 

 担任の先生は恍惚とした、とろけた声で告げる。

 ……。


「アァ!?んだ、ア!?」


「殺せッ!?」


「天誅だァ!?」

 

 おそらく僕の同級生と思われる女子高校生たちのドスの利いた声が聞こえてくる。殺意に染まった。

 殺意マシマシの。

 ……先生?どうして、どうして『私から男の匂いがするでしょう』なんて言葉を言ったんですか?

 それじゃあただの自慢です。


「あなたたち、落ち着きなさい」


 担任の先生が静かに告げる。


「アァ!?黙れやァ!このクソ犯罪者!!!」


「独房の中に突っ込んでくれるわ!!!」

 

 だが、何の効果も及ぼさない。


「よし、落ち着いたわね」

 

 ……。

 …………。

 ……先生?どこが?どこが落ち着いたの?何も変わっていないよ?


「私達のクラスにはずっと空席の席があるわね。その席の子はずっと不登校だった。でもね。今日。なんとその子が来てくれているのよ」


「知るかボケェェェェェ!!!」


 知って。男の子よ?


「関係あるかぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!」

 

 あるよ?匂いの正体は僕よ。


「だからなんじゃってんだい!クソ犯罪者!」

 

 担任の先生を犯罪者呼びするのはダメじゃないかな?


「まだ慣れないこともあると思うから、仲良くしてあげてね」


 うん。慣れないね。こんな状況で平然と話を続ける先生は知らない。確かに先生は頭硬くて、『すごい速度で変わりゆく世の中で力を発揮できるように生徒を育てる』とか言っておきながら、数十年変わっていない校則にしがみついているような人間だけど。

 こんなスルースキルは見たことがない。


「では、入ってきていいわよ」

 

 ……正気?そんな状態で僕に入れようとするの?

 嘘でしょ?流石の僕もそんな殺気だったところに入ったことはないよ。


「……?入ってきていいわよ」


 なるほどね。入れと。

 僕はすべてを諦め、教室の扉を開いた。


「失礼しま───」


「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」


「……え?」

 

 僕は聞き覚えのある声を、叫び声が聞こえていて足を止めた。


「……うっそぉー」

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