第30話

「えへへ」

 

 僕は自分の指に嵌まる指輪を見て、微笑む。

 ……そういえば、この世界でも指輪は薬指で良かったのだろうか?

 前世じゃ左手薬指につけるのが一般的だったけど、別に嵌める指に明確な決まりはなかったはずだ。

 確か、ドイツ、オーストリア、ポーランド、ノルウェー、チェコなど東ヨーロッパや北欧では、右手薬指に結婚指輪、左手薬指に婚約指輪をはめるのが主流だったはずだ。

 僕、婚約指輪貰ってもないし、渡してもないけど。

 それに、国だけでなく宗教によっても違いがあって、同じキリスト教でもカトリックは左手薬指に、プロテスタントは右手薬指に結婚指輪をするっていうのをキリスト教ガチ勢のオタクくんに教えてもらった。ちなみに、オタクくんはキリスト教徒ではない。めちゃくちゃキリスト教について詳しかったけど。

 インドや東南アジアの一部地域には、足の指に婚約指輪を嵌める習慣があったはずだ。

 ぐちゃぐちゃになった第二次世界大戦と、男女差のバグり。婚約=結婚のこの世界に婚約指輪なんてないように、前世と文化が違うかもしれない。

 まぁ、左手薬指に着けるのは、古代ギリシャ時代に「左手の薬指には心臓につながる太い血管(愛情の静脈)がある」と信じられていたことによるものだ。昔、心臓は愛の象徴とされていて、そこから左手薬指に着ける習慣が一般化したっていうのが通説だったはずだ。

 古代ギリシャ時代はこの世界も前世の世界も同じだと思うから、大丈夫だとは思うんだけど。


「ぽー」

 

 呆然と指輪を眺めている和葉。

 ……うん。和葉の様子から見るに多分大丈夫だね。


「私……結婚したんだ……」

 

 和葉はポツリと呟く。


「うん!そうだよ。僕たちは結婚したんだよ。夫婦だよ!夫婦!」

 

 僕は和葉の言葉を肯定する。

 そう。夫婦になったのだ。限界オタクでしかなかった前世とは雲泥の差だよ。本当に。


「それで……その。私たちは結婚したん、だよね。じゃあ……」


 和葉の視線は僕の下半身へ、とある聖剣に向けて刺さっていた。

 『お?俺様の出番かな?』と、僕の息子が重い腰を上げる。


「もー。和葉はエッチだなぁ」

 

 僕は笑う。


「い、いいいいいいいいいいいや、あ、のそ、にょ」

 

 僕の言葉を聞いて和葉が慌てて顔を上げ、言葉をつまらせる。


「ふんしょ」


「へ?」

 

 僕は顔を真っ赤に染め上げ、意味わからないことをつぶやき続ける和葉をソファに押し倒す。くるりんと上下が反対になる。

 そして、和葉の耳元に口を近づける。


「良いよ?シよ」

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