第28話

「お疲れさまでしたー」


「はーい」


 撮影の準備はスタッフさんが完璧にしてくれて、スムーズにそして迅速に何の問題もなく撮影を終えることが出来た。

 やっぱりプロの人はすごいね。


「あ……」

 

 僕はお店のショーケースの中の指輪が目に入る。

 それは一つのペアリング。

 銀色のスタイリッシュでカッコ良く、真ん中に小さなダイヤが入ったシンプルなデザインのペアリング。

 なんかこの世界の無駄にデカいだけのダイヤを真ん中にドーンと乗せ、指輪の部分は何のデザインもなし。というこの世界の指輪とは少し違う綺麗な指輪。


「いかがないさいましたか?」

 

 お店のスタッフさんが指輪を見ている僕に気が付き、話しかけてくれる。


「いえ、ちょっとこれが気になっていて……」


「そちらのペアリング、でしょうか?」


「はい。そうです」

 

 僕が頷くとみんながざわめきたつ。


「はぁはぁはぁはぁ」


 そして、僕の隣に立つ天音さんも静かに息を荒らげ始める。

 ……ん?どうした?なんでそんなにざわめきたっているの?


「これ、買えますか?」


「は、は、は、はいぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいい!大丈夫です!!!」

 

 なぜかわからないけど、動揺するお店のスタッフさん。


「はわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ!!!」


「はぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


「ひやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ……?なんでそんなに動揺してい、る……の?

 あ。

 そういえば僕に婚約者がいること配信で言っていなかったかもしれない。

 確かにそんな僕がペアリングを買ったらとんでもない騒ぎになって当然かも知れない。

 まぁ、買うのを辞めたりしないけど。

 折角の機会なのだ。ここで買いたい。僕の好きなデザインのペアリングだし。


「は、は、はい、どうぞ……」

 

 お店のスタッフさんは袋に包んだペアリングを僕に渡してくれる。


「ありがとうございます。……えぇと……代金は?」


 レジを通さずに渡されるペアリング。

 

「あ、そんなそんな!お金なんて受け取れません!」


 ……買い物をしてお金を受け取れないなんてことが僕以外にあるだろうか?

 

「……あぁ、そうですか。じゃあこれはありがたくいただきますね」

 

 僕は頷き、ペアリングを受け取った。

 もう、ね。こういうのにも慣れてきた。お金なんて受け取れないと言っている人は本当に受け取れない。どんなに頑張っても拒否されるのだ。

 もう慣れてきている。僕も。

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