第26話
「あー、喉乾いた」
「どうぞ。レモンティーでございます」
「あ、ありがとう」
僕の些細な独り言をしっかりと拾った天音さんが僕にレモンティーが入ったグラスを差し出してくれる。
貰ったレモンティーで喉を潤す。
今日はアクセサリーの広告。CMの撮影日だ。今回僕がCMをとる会社は、その業界の中で最大手であり、結婚指輪などの高いものから普通のブレスレットまで幅広い様々なものを扱っている。
僕は車に乗って撮影場所に向かっていた。
「ありがとね」
僕が飲み干し、空になったグラスを天音さんに渡した。
その時。
ドンッ
衝撃。
車の中に鈍い衝撃が走る。
「襲撃者ッ!」
運転手の人が叫ぶ。
「ヒャッハー!!!」
「あなたは私のものだァー!!!」
車の扉がぶち破られ、女性たちが手を伸ばしてくる。
「失礼します」
「ひゃっ」
僕の前を天音さんの足が通る。
ドンッ
鈍い音ともに、車の中に手を伸ばしていた女性たちが吹き飛ばされる。
「少々お待ち下さい」
ニコリと笑顔を浮かべた天音さんが静かに車から降り、車を襲撃してきた数人の女性たちに牙を剥けていく。
「はえー」
僕はそんな様子をひょっこりと車から顔を出して観察していた。
女性たち。
銃弾を受けてもピンピンとしている謎の大和魂を持っているパーサーカー状態の女性たち数人を相手に無双する天音さん。
……あれ?なんか僕が拉致されたときより格段に強くなってね?和葉と比べたらまだまだだけど、化け物のレベルに到達してね?
「ん?」
そして気づく。
ここは街の大通りであったことを。そして、たくさんの女性たちがこの場にいることを。
僕を見て歓声を上げ、カメラを向けてくれる人たちがいることを。
……これは。
どうしようか。
少し悩む。
まだ彼女たちは襲ってきてないけど……僕のことを見て理性を失うかもしれない。
「よし」
僕は彼女たちに手をふる。そしてすぐにひしゃげた車の中に戻った。
あれ以上女性たちの前に顔を晒しているのも怖かったけど、流石に何もしないで無言で引っ込むのは違う気がしたから、ファンサービスとして手をふってあげたのだ。
あれだけでも大喜びだろう。きっと。
それからしばらく。
「おまたせしました。賢人様を襲った不届き者は全て私が殲滅致しました」
天音さんが車の中に戻ってきてニコリとカッコいい笑顔を向けてくる。
ヤバい、カッコいい。
惚れた。
僕は冗談ながらそんなことを思った。でも、あれは惚れるぜ!めちゃかっこよかった。童貞即落ちやわー。
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