第10話
「よろしくお願いしまーす!!!」
僕は震える体を誤魔化すように元気よく挨拶して扉を開け、部屋の中に入る。
僕が部屋の中に入る。
その瞬間に中にいた人の視線が。
突き刺すような視線が僕を貫く。
僕が入った部屋はそこまで大きなものではない。こじんまりとした部屋。そこに置かれた椅子に座っている中年の女性が一人。
「ど、どうも初めまして。マーリンです」
僕はそんな視線から逃れるように勢いよく頭を下げる。
ガタン
椅子から人が立ち上がってくる音が聞こえてくる。
そして、その人は段々と僕の方に近づいてくる。
僕は仕方なしに顔を上げる。
「こちらこそどうも初めまして。私は『ホロさんじ』を運営しているえにカバー株式会社の社長である櫻井遥香と言います」
僕の前に立っている人はそう言って僕に向かって手を差し出してくる。
……そして、僕はその手を無視する。
軽々しく接触しないこと。
「あぁ、すみません。接触はNGですよね。いつもの癖で」
「いえいえ、大丈夫ですよ。こちらこそすみません。握手を無視する形になってしまって」
「では、どうぞ。立ち話もなんですから、とりあえずは座ってください。諸々の話は座ってから話しましょう」
社長さんは鏡の前の空いている席を示す。
「はーい」
僕は言われたとおりにその席に座る。
その周りを僕の護衛としてついてきた人たちが囲む。
コンコン
僕が座り、ちょうどいい感じの姿勢についたその瞬間、ドアがノックされる。
「はい。どうぞ」
社長さんはドアに向かって声をかける。
え!?誰か来るの!?聞いていないんですけど!?女性は一人しかいない、と言われていたんだけど……?
「失礼するわよ!」
ドアが開かれ、一人の……
「!?」
僕は中に入ってきた人を見て驚愕の表情をつい見せてしまう。
そこに立っていたのは身長が2m近くありそうな筋肉隆々の男、性?
パッと見の見た目は完全に男だ。僕よりも遥かに男だ。
だがしかし、その服装は……到底男だとは思えなかった。
いや、服装だけじゃない。その顔を彩るメイクもそうだった。
アイシャドウ、ファンデーション、リップ。多種多様のメイクが施された顔面。
そして、着ている服装。前世でもコミケとかでしか見ないような、この世界ではまず見ることのないゴスロリ服を着ていた。
オカ、マ?
僕は固まる。この世界でもオカマはいるの、か?まぁでも性同一性障害は精神疾患だからこの世界にも存在していてもなんら可笑しくはないのか……?
「あらいい男!」
僕よりも遥かに男らしい、野太い声がこの場に響き渡った。
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