第27話
鈍い痛みが僕を貫く。
「なっ!?」
いきなり自身の手をナイフで貫いた僕を見てデブは驚愕の声を上げる。
血が垂れる。
「実に簡単な話だ」
「死ねば良い」
僕はなんてこともないように、さも当然のことのように告げる。
ぐちゅぐちゅ
ナイフを動かし、自分の肉を切り裂いていく。
痛みに顔を歪ませるなんてことはしない。平常心を貫き通す。
「僕らは数少ないんだ。故に死ねば良い」
「死ぬ……」
デブが呆然と呟く。
平然と告げる僕の言葉に動揺し、他の男たちはざわめき始める。
僕はそれをただただ無言で眺めていた。
しばらく。
少しずつその場は沈黙に支配されるようになり、みんなの視線が集まってくる。
……さてはて。
どないしようか。
みんなに心中しようぜ!とかどうすればいいんや。
「簡単な話だ。数も少ない。力もない。何も出来ない弱者。だが、死ぬことくらいなら出来る。どんな出来損ないであっても死ぬことくらいなら出来る」
僕は静かに話し始める。
それっぽいことを話していくしかない。
「僕らは数少ない。希少な人間だ。それ故に価値も高い。僕が死ねば?君たちが死ねば?困るのは相手側だ」
すぅー。
僕はゆっくりと息を吸う。
「どうせ死ぬのダァ!ここで僕らがナイフを首に突き立てようともッ!ここで僕らが女性に掴まれようともッ!肉体的な死を迎えるかッ!精神的な死を迎えるかッ!その違いでしかないッ!」
「僕は僕だッ!一人の人間だァ!一つのッ!はっきりとした自我を持つ人間だァ!どうせ死ぬのならッ!僕は精神的な死を選ぶッ!一人の人間としてッ!自分の意思で死を選ぶッ!女性の性奴隷としてッ!ただの人形として生きるつもりなどないッ!なぜなら僕は人間だからッ!」
「汝らはなんぞやッ!貴様らは何だッ!人形かッ!人かッ!」
死ななきゃお前は人間じゃないよ。とか、とんでもない暴論よな。
信じられねぇ。別に女性の性奴隷だったとしても、普通に甘やかされていい生活を送れるので、普通に人間だよね。
何も為さなくても、周りから流される人間でも、他人に迷惑をかけるだけの存在でも。ただ生きているだけで十分人間、人間であることに変わりはないからね。
「俺はッ!」
真っ先に女男が立ち上がり、動き出す。
……え?
そして、僕の手にぶっ刺さっているナイフを引き抜く。
「人間だッ!」
突き刺す。
僕と同じように手のひらに思いっきりナイフを突き刺した。
「あぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!」
女男は悲鳴を上げる。
「はぁはぁはぁはぁ……俺は、人間、だ!」
息を荒らげ、瞳に涙を浮かべている。僕のような平常心とは程遠い。
だが、僕を見つめてくるその瞳はこれ以上ないくらいに力強い光を放っていた。
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