第25話

 僕は他の男たちがいるところに向かった。

 あの扉から先の空間は狭く、たった一つの部屋しかない。廊下だって酷く短い。こんなところではもう何も出来ないだろう。

 

「やっほー」

 

 僕は何気ない感じで扉を開け、みんなに挨拶する。

 ここは男子更衣室である。男子更衣室故にあんなに大きくて厳重な扉があるのだ。

 

「……」

 

 僕の言葉に対して他の男たちは沈黙でもって返す。

 彼らはめちゃくちゃ沈んでいた。ずーんと感じだ。

 全員がうつむき、死にそうな顔をしている。泣いている人だっている。この場はまさに地獄そのものだった。

 

「はぁー」

 

 僕は一人ため息をつく。……どうしようかなぁー。

 どうしようもない。本当にどうしようもないのだ。

 どんなに頑張っても何も出来ない。

 もうすぐあのドアも壊され、僕らは女性たちに蹂躙される。……いや、残り時間はもう30分もない。僕であれば30分ならなんとか逃げ切れる。

 僕一人ならなんとかなるだろう。

 ……僕一人、ならば。でも……彼らは……助からない。

 必ず助からない。全員蹂躙されるだろう。


「ふー」

 

 別に僕一人で逃げてもいいのだ。

 いや、最後の最後になったら僕は一人で逃げるつもりだ。

 ……だが。最後まで抗いたい。みんな全員無事で終わりたい。そう思ってしまうのは僕のエゴだろうか。僕の我儘だろうか。

 僕に何が出来るのか。何を為せれるのか。何があるのか。

 僕にあるのは……男たちにあるのは……。あぁ。あれだけだ。これだけだ。それしかない。一つしか無い。

 僕らに、力なき男に、数少なき男に出来ることなど一つしか無いだろう。それしかないだろう。

 僕は懐にあるナイフをそっと掴む。


「ふー」


 問題は僕に出来るかどうか。

 成功難易度はかなり難しいだろう。きっと難しい。何も出来ずに終わる可能性の方が高いだろう。別に僕は得意でもなんでも無いのだ。それは僕の専門じゃない。

 いや、出来るかどうかを考えても無駄だろう。そんなことを考えている場合ではない。

 とりあえずはやるべきだ。やらなくてはならない。

 やるしかないのだろう。やるしかない。

 僕はズボンからスマホを取り出し、操作する。もう開くまいと思っていたアプリを開き、操作を施す。

 そして、教室の一番後ろに向かい、後ろのロッカーにスマホをセットする。


 そして、

 

 ダンッ

 

 僕は教室の前に立ち、教卓を思いっきり叩いた。

 僕に注目が集まるように。

 

「なぁ」

 

 僕はうつむいている男たちに話を初めた。

 これは最後の賭けだ。

 僕が出来る唯一の抵抗だ。

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