第19話

 しばらく。

 一時間ほど経っただろうか。

 

 ドタドタドタドタドタドタ

 

 遠くの方から足音が聞こえてくる。


「用意!」

 

 僕は声を張り上げる。

 その声に合わせて大きなものを抱えた男たちが構える。

 

 ドタドタドタドタドタドタドタドタドタ

 

 見えてくる。

 獣のようによだれを垂らし、四足歩行で駆け抜ける女性たちが。

 ……見た目はみんな美人なんだけどなぁ。もう少し人間でいてほしい。

 そして彼女たちは階段に足をかける。

 

「やれ」


 そのタイミングで僕は男たちに命令を下す。

 それに合わせて男たちは樽や冷蔵庫など。この学校にあった大きいものを落としていく。

 何もないところだったら、彼女たちは何事もなく突き進んでくるだろう。

 しかし、ここはスライムでヌルヌルになった魔の階段。

 彼女たちはツルンと足を滑らし転び、大きいものに押されて下まで落ちていく。

 僕だって何も出来ずに落とされる仕組みなのだ。和葉でもなければ乗り越えることなど出来ないだろう。


「全て投下し終わりました!」


「了解!今すぐにお前らは逃げろ!」


「はい!」


「四階へな!」


「はい!」

 

 僕の言葉に聞き、男たちは走り出す。

 僕は懐からとあるものを取り出す。


 ジュポ

 

 懐から取り出したもの。それはジッポ。

 火をつけたそれを僕は投げる。

 

 ボワッ

 

 スライム。

 このスライムは特別製でたっぷりと油が入っている。

 油入りスライムを作るのは大変だったよ。

 油入りスライムは良く燃えた。散らばっていた樽の木屑にも着火し、炎はどんどん増して強くなっていく。


「ほんら」

 

 そして僕は油がたっぷりと入った樽を投げ込む。

 炎は燃え広がり、業火となる。

 上にいる僕の方までその熱さが伝わってくる。

 前世ならこれで終わりだろう。

 ……だが、こんなもので終わるなら最初の水攻めで終わっていたはずだ。

 あの水攻めでも誰も減っていない。全員脱出したのだろう。

 

「「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!」」」

 

 ……ゾンビか?

 ゾッとさせるようなうめき声を上げてこちらに近づいてくる女性たち。

 熱く燃え盛る業火などなかったかのように。

 燃えている自分の衣服なんかに気づかないように。

 

「……っ!?」

 

 彼女たちは全裸だった。

 僕は条件反射で背を向け、顔を赤らめる。


「「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!」」」

 

 うめき声で戻される。

 狂ったような笑顔を浮かべ、燃えながら悠然と歩く裸の美女。

 ホラー映画よりもよっぽど怖かった。


「ラウンド2」

 

 僕は背を向け逃げ出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る