第17話

「う、うんち!」


 私は高らかに大声を張り上げる。


「はぁ?」


「うんち見たんですよね!」

 


 うんちと。

 


「は?え?……ん?」


 イヤホンから仮面さんの戸惑った声が聞こえてくる。


 な、何を……何を言っているのだ私は!?アホなのか!?

「……いや、なんでも無いです」


「え、あ……そう」


 バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!

 私のバカァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 焦りすぎよ!脈絡なくいきなりうんち!なんて叫ぶなんて正気の沙汰じゃないわ!


 もうすでに1時間。1時間経っていた。

 にもかかわらず私が引き出せた言葉はみんなの名前と『好き』と『大好き』だけ。

 言わせなきゃいけない言葉が書かれた紙の厚みはノート一冊分くらいになるというのに。

 次……言わせそうな言葉……ド変態……雄豚、ムチ……。

 無理だぁぁぁぁぁあああああああ!


「そ、そういえばなんか町を徘徊するド変態がいるらしいんですけど……」


 それでもなんとかしようと奮起する。殺されたくない。


「え?下半身露出してうんちしている人?」


 うんち!キタ!


「あ、違います。うんちは関係ないです」


「あ、ないのね。……じゃあうんちは何?」


「なんでも無いので、気にしないでください!」


 ……あぁ。なんでいきなりうんちなんて言ってしまったんだ……。


「それでそんなド変態のことどう思う?」


「んー、別にどうとも思わないなぁー。ド変態って、この世界の女の子全員ド変態じゃん」


 はうっ!

 

「え、えっと……ムチってどう思います!?」


 私はこのままこの話を続けるのはまずいと判断した私は話題を逸らすためにたまたま目に入った言葉を大声で告げる。

 ……何を口走っているの?私は。


「えぇ!?ムチ!?いきなり何!?話題を逸らすにしてもなんでムチ!?もっと別の何かなかったの?」


「うぅぅぅうううう」


 私は変なうねり声を上げることしか出来ない。

 さっきから変なことしか言っていない。

 もうだめだぁ。私なんかが何か出来るわけがなかったんだぁ。

 

「……もしかして僕になにか言わせようとしている?」

 

 ……ゑ?


「うんち……ド変態……ムチ……普通では出てこないような変態的な言葉。……あぁ、なるほどね。僕の言葉をつなぎ合わせて合成するのかな?だからこその本名か!言わられるのならゲームでの名前じゃなくて本名のほうがいいよね!」


 ……。

 …………ゑ?


「なるほどね。完全に理解したいわ。それで?僕に何を言ってほしいの?なんでも言うよ?……このド変態共がァ!!!とでも言えばいい?」


 イヤホンから仮面さんの楽しそうな声が聞こえてくる。

 

 

 

 ゑ?




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る