第12話

 チュンチュンチュンチュン

 

 窓の外で雀の泣く声が聞こえ、朝日がカーテンの隙間から入ってくる。

 まるで眠れなかった。

 か、か、か、仮面さんと一緒にゲームをして遊んだ日の夜。

 興奮しすぎてまるで眠れなかった。

 ずっとゲームしていたかったけど、仮面さんから寝るように強制されて布団に入ったんだけど、まるで眠れなかった。

 私はちょっと濡れちゃっている布団から出て、スマホを開く。


『夜遅くにごめンゴ。水面が欲しがっていた素材が結構手に入ったんだけどいる?』


「ふぇぇぇえ!?」

 

 スマホ画面に写っていたのは仮面さんからのDM。

 仮面さんからのプレゼント!?……プレゼント!?

 私に!?私なんかに!?私のようなゴミクズに!?

 いや!落ち着け……落ち着け。 

 仏説摩訶般若波羅蜜多心経 観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空度一  切苦厄 舎利子 色不異空 空不異色 色即是空空即是色 受想行識亦復如是 舎利子 是諸法空相 不生不滅 不垢不浄 不増不減 是故空中無色 無受想行識 無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法 無眼界 乃至無意識界 無無明亦 無無明尽乃 至無老死 亦無老死尽 無苦集滅道 無智亦無得以無所得故 菩提薩埵 依般若波羅蜜多故 心無罣礙 無罣礙故 無有恐怖 遠離一切顛倒夢想 究竟涅槃 三世諸仏 依般若波羅蜜多故 得阿耨多羅三藐三菩提 故知般若波羅 是大神呪 是大明呪 是無上呪 是無等等呪 能除一切苦 真実不虚 故説般若波羅蜜多呪 即説呪日 羯諦 羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶 般若心経 仏説摩訶般若波羅蜜多心経 観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空 度一切苦厄 舎利子 色不異空…… 

 

 ふぅー。少しは落ち着いた。

 別にこれくらいいつものことじゃないか。

 仮面さんは優しいからいつも定期的に私が必要な素材をくれるじゃないか!

 私は返信を書く。


『ありがとうございます!お礼に私をお送りしますね!』

 

 私は返信を送……ちょいちょいちょっと待って!?私は何を送ろうとしているの!?

 慌てて全文を削除する。こんな怪文書を送ったら引かれる。私のようなゴミ女を仮面さんが必要としているわけない。

 ……ぐすん。仮面さぁん。

 ……。

 …………。

 なんて。

 なんて送れば良い!?なんて送れば良い!?なんて送ればいい!?

 なんて送るのが正解なの!?

 私は今までどんな返事を書いていた!?


『ありがとうございます!大好きです!』


『ありがとうございます!愛しています!』


『ありがとうございます!私を飼ってください!』


 いやいや、違う。こんな怪文書じゃない!

 私は何度も文章を書き換える。

 あぁ。既読つけちゃったのに、返信できていない!既読スルーしちゃってる。私なんかが!

 あわわわわ。


『ありがとうございます!』


 私は熟考に熟考を重ねた末、それだけを送る。

 ……あんだけ時間かけててたったこの一言。……仮面さんに変に思われていないかな?大丈夫かな?

 私はソワソワしだす。

 キョロキョロと挙動不審に視線を動かしていると、時計が私の目に入る。

 時間が。時間がやばかった。


「学校に遅刻する!」


 私は急いで支度をして家を飛び出した。

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