第6話

「すぅー、はぁー」


 私はパソコンに表示されている【エスプリ】のロード画面を見て一度深呼吸を行う。

 今日、これから仮面さんをボイチャに誘う。

 仮面さんが男の子なわけがない。そんなことは百も承知。よく理解している。しかし、しかしだ!

 悲しきかな。

 それでもドキドキしてしまうのだ!


 パン!

 

 一度自分の頬を叩き、気合を入れる。


「よし」


 私は【エスプリ】のロード画面をクリックし、ゲームを始める。

 データダウンロードの時間が焦れったい。

 データダウンロードの時間が終わり、ゲーム画面が写る。

 マウスを動かし、私はギルドの画面を開く。

 ギルドのメンバー欄にはすでに仮面さんと霧音がログインしていることを示していた。


「すぅー、はぁー」


 私はここで一度また深呼吸をはさむ。

 理解しているはずだろう。

 仮面さんは男の子ではない。それにそもそも仮面さんが通話を受け入れてくれるわけがない。

 よし!


『仮面さん。今大丈夫でしょうか?』


 私はギルドのチャット欄にメッセージを打ち込む。

 あぁ!やっちゃった!もう後戻りはできない!


『ん?大丈夫よーん。何か僕に御用かな?」


 すぐに仮面さんから返事が返ってくる。


『本当ですか!ギルド対抗戦があるじゃないですか』


『あぁ。うん。あるね』


『それでなんですが、その事に向けて少し特訓したいと思っていまして』


『……僕が弱くなったもんね』


『あ、そういう意味ではないです!』


 私は慌てて否定する。


『いや、いいよ。別に本当のことやし。まぁ僕がというより、キャラがだけど。それで特訓ね。いいんじゃん!やろ!今、三人しかいないけどいいの?』


『はい、大丈夫です。他の人達は部活があるので、後で来ます。とりあえずは三人でお願いしたいんですが』


『おけまる水産』


『それでなんですけど、ボイチャしませんか?』


『……あぁ、ミュートなら良いよ』


『それでも全然構いません!』


 あぁ、やっぱり無理だよね。

 落胆とともに安堵の気持ちが私を支配する。

 霧音がもっと粘れ、と連絡を送ってくれるが無視だ。無視。私は十分頑張った。


『じゃあボイチャ開きますね』


『ほいよ』


 私はギルドのチャット欄にあるボイチャ機能を使ってボイチャを開く。

 テロンという軽快な音が二つ、私がつけているイヤホンから聞こえてくる。

 仮面さんと霧音がボイチャに入ってきたのだろう。

「ひゃぁぁああ!?待って!レモンティーこぼした!冷たっ」

 

 

 世界を聞かせるは我が男の声!

 

 

「「え?」」

 私と霧音の声が被る。

「あ」

 

 

 え?

 

 

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