第7話

 時が止まる。

 今、何が?

 誰の?どんな?声がした?

 不条理。不可解。不自然。

 ありえない。


「やっば……」

 

 甘美な響きが私の耳を包む。

 ぶんという誰かがミュートにした音がイヤホンから聞こえてくる。

 この状況から考えれば、ミュートにしたのは十中八九仮面さんだろう。

 ……。

 …………え?

 え?え?え?

 

 え?

 

 ワケガワカラナイ。

 なんで?なんで?なんで?

 なんで聞こえてきた?

 

 男の声が。

 

 か、か、か、

 仮面さんが男の子だった?ほんとのほんとに男の子だった?

 理解不能。理解不能。理解不能。

 ……。

 …………。

 え?ガチ?

 マジで?マジのマジ?

 えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええ!!!

 嘘!嘘!嘘!嘘!嘘!嘘!嘘!嘘!嘘!嘘!嘘!嘘!嘘!嘘!嘘!嘘!嘘!嘘!

 嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

 そんな、そんな、そんな、そんなことってある!?

 漫画じゃないんだよ!?小説じゃないんだよ!?アニメじゃないんだよ!?

「ひやぁせいこんのだそどこっにこあいせはやぁいるあうおんいぇかぁぁぁぁ!?」

 私がようやく現実を見ることができたくらいのこと。

 とんでもない絶叫が私の耳を襲う。

 その主は当然霧音だ。


「でふぅ!でふぅ!でふぅ!男!くぼぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!」


 とんでもない奇声。

 同性である私ですらドン引く奇声。それを男の子である仮面さんが聞けばどうなるか。

 想像に難くない。

 こんなクソ女郎なんかに出会いを邪魔させてたまるかぁぁぁぁああああああああ!


「ご、ごめんなさい。霧音がちょっと取り乱してしまってみたいでして……。ちょっとボイチャ切りますね」


「りょーかいです」


 ふわぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!!

 

 理性が飛ぶ

 理性が飛躍する。

 理性が真理に達する。

 

 私はすべてを悟りました。

 人間は愚かであり傷つけ合い世界を滅ぼし続けてきました。

 苦しみこそが世界を救い、真理とは最も単純なものであり、執着から一度一歩引くことによって初めてものの見方を知ることが出来るのです。

 人々は大衆の持つ価値観倫理に流され少数を徹底的に排除し、捻じ曲げられた過去を妄信的に信じ他者からの偽りの情報を鵜呑みに他者を叩き、自分では何も考えず何も知ろうとせず何も行動する気もなく出来もしない理想を垂れ流している愚かで情けない生き物である。

 

 男の子は素晴らしい。


「切らんと?」


「今切ります」

 

 私はボイチャを切った。

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