第31話

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!!」


 僕は絶叫する。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」


 あまりの痛みに悶絶する。

 この世界に来ての初めてとも言える痛みかもしれない。

 その原因は至極当然。

 日焼けである。

 そういえば日焼け止めを塗っていなかったね。


「だ、だ、だ、大丈夫?あわわ。な、何か。何か」


 そんな僕を介護するのは宅配員のお姉さん。

 宅配員のお姉さんは僕に保冷剤をくるんだ濡れタオル、氷水を入れたビニール袋を当ててくれる。

 あぁ。冷たくて気持ちいい。

 宅配員のお姉さんのお膝はぬるぬるしているンゴ!

 宅配員のお姉さんはいつも変わらないねぇ!いっつもぬるぬるやねぇ!

 もう飽きるほど思ったが、君の水分はどうなっているんじゃワレェ!


「うん。大丈夫。まぁ我慢できる」


 今世では初の痛みだけど、前世ではこのくらいの痛みは日常茶飯事だった。


「はぅ」


 僕は慌てふためく宅配員のお姉さんを安心させるように笑いかける。


「ありがと。もう十分よくなった」


 まだ結構ヒリヒリするけどまぁ我慢できなほどではない。

 僕は配達員のお姉さんのぬるぬる膝枕から離れ、体を起こす。

 ……頭がぁ、頭がぁ。

 ぬるぬるする。


「大丈夫?賢人ちゃん?」


「うん。まぁ平気だよ」


 心配そうに声をかけるお母さんに僕は平然と言葉を返す。


「じゃあもうそろそろ寝ようかしらね!」


「あぁ。うん。そうだね。おやすみ」


 僕は早々と挨拶を済ませ、自分の部屋に向かう。

 さっさと自室に向かった僕に一瞬唖然とした二人を無視して。

 日焼けで痛む体を忘れるかのように勢いよく布団に潜る。

 

 チクタクチクタク


 ムカつくくらい静かな空間で時計の時を刻む音だけが響く。

 

 チクタクチクタク

 

 僕の優れた五感は、鍛え上げられた五感はお母さんの寝息と、配達員のお姉さんの寝息を捉えていた。

 配達員のお姉さんの眠りは……嘘じゃない。

 本当にぐっすり寝ている。

 配達員のお姉さんに夜這いをかけられることはないだろう。

 ……。

 …………。

 ……馬鹿みてぇ。

 僕は自嘲する。

 未だに信用できないのか。僕は。

 未だに恐れているのか。僕は。

 未だに……未だに……未だに……。

 違う。

 違う。違う。違う。

 そんなわけがない。

 もう理解している。

 宅配員のお姉さんが僕を襲うことはないくらい。宅配員のお姉さんが僕を愛していてくれて、好かれようと頑張って努力していて……それなのに僕は……。

 ……っ。

 

 もうとっくの昔にわかっているのだ。

 

 僕は目をつむった。

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