第32話

「ふっふっんふーん」


 僕はゲーム画面が開かれたスマホから目を離し、せっせと家のお掃除を頑張っている配達員のお姉さんを眺めていた。

 お母さんは日本でやらなくてはいけない仕事があるらしく、今は家にはいない。

 というわけで、家にいるのは僕と配達員のお姉さんの二人だけだ。お仕事は良いのかと僕が聞いたら平気という言葉が返ってきた。

 まぁ配達員のお姉さんが僕に大丈夫と言っているのだから、大丈夫なのだろう。

 配達員のお姉さんは上機嫌に鼻歌まで歌っている。


「ふぇ!?な、何?」


 ようやく僕に見つめられていることに気づいた配達員のお姉さんが変な声を上げ、僕のほうを見る。

 ふふ、可愛いなぁ。


「ねぇ」


 僕は椅子から降り、配達員のお姉さんの元に近づいていく。


「ん?何?」


「お姉さんの名前ってなぁに?」


 ─────僕が。

 僕が恐れ、あえて今まで問わなかった質問。

 本来ならば一番最初に聞くべき簡単な質問。

 それを……僕は何気ないことを聞くように聞く。


「え、えっと。和葉。天音和葉って言うの」


 唐突な僕の質問に戸惑いつつも宅配員のお姉さんはしっかりと答えてくれる。

 僕はこの世界をどこかゲームのように、小説のように捉えていた。

 他人事のように生きていた。

 僕は死んだ。僕には死んだ記憶がない。

 即死したのか、それともショックのあまり忘れているのか。

 そんなことはどうでもいい。何が原因で死んだかなんて。

 重要なのは僕がいきなりこんなトチ狂った世界に転生したことだ。

 この冗談みたいな世界に。

 だから、引きこもった。

 認めたくなかった。

 容認したくなかった。

 自分が転生したなんて言う眉唾物を。

 ……家族は?……友達は?

 みんなとはもう会えないの?僕はまだ何も出来ていないのに。

 朝起きればそこにはいつもの世界が広がっていると心のどこかで望んでいた。

 寝るのが嫌いだった。

 朝起きて現実を突きつけられるのが嫌いだったから。

 自分自身にここは夢の世界だって、無意味で、滑稽な暗示をかけ続けてきた。

 いつか目が覚めていつもの変わらない日常に戻れると思っていた。

 でも、違う。

 違った。

 僕はこの場に立ち、生きている。

 この世界の住民として、一人の人間として生き

 ─────一人の女性に愛されいるのだ。愛されているのだ。

 僕は一歩前に進む。


「ねぇ」


 僕は片膝をつき、自分で作った少し歪な指輪を差し出す。


「和葉。僕と結婚してくれませんか?」


 初めて宅配員のお姉さんの、和葉の名前を呼び、一世一代の初めてのプロポーズの言葉を告げた。







 よし!ようやく配達員のお姉さんの名前を出した!

 割と無理やりな気もするけど、いい感じのこじつけられたのではないだろうか?

 あ、後、『未完結のゲームで最初の方に死ぬクソ雑魚敵キャラに転生したと思ったらなんかクソ強いんですけど?……もしかしてラスボスだったりする?』という異世界小説を投稿したので良かったら見てみてください。

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