第29話

「波のほうはいい感じ?」


「うーん。いい感じー」


 僕は浮き輪の上で波に揺られながら宅配員のお姉さんの言葉に答える。

 宅配員のお姉さんとの対決。それがいかに愚かだと知った僕は宅配員のお姉さんとの競争なんてものはやめ、平和に浮き輪に揺られていた。

 ちなみに波を作っているのは大いなる自然ではなくて宅配員のお姉さんだけど。

 ……意味がわからないが、なんか海の上に立っている宅配員のお姉さんはここら一帯の波の流れを食い止め、新しく僕のために心地よい波を作ってくれているのだ。

 ……どういうこと?宅配員のお姉さんは神か何かなの?

 最早理不尽過ぎて意味がわからない。

 化け物すぎるッ……!

 もうこの人一人で全世界と戦争できるんじゃないか?


「あ、喉渇いていない?」


「あ、うん。渇いている」


「はい。どうぞ。レモンティーを入れた水筒です」


「あ、うん。ありがと」


 僕はありがたく水筒を受け取り、喉を潤す。……宅配員のお姉さんは何もいらないのだろうか?ちらりと大量の水を放出する下半身に視線をやり、疑問に思う。

 ……まぁ宅配員のお姉さんだし平気なのだろう。

 うーん。今日はいい天気だなぁ。

 暖かな太陽の光が心地よい。もう太陽の光にも慣れてきた。……あ、そういえば日焼け止め塗ってない。

 ……考えないことにしよう。

 うーん。ちょっとお昼寝でもしたい気分。

 流石にしないけど。宅配員のお姉さんもまだちょっと怖いし。


「賢人ちゃんたちー!ご飯の準備ができたわよー!」


 遠くからこちらに向けて声を張り上げる。


「はーい!」


「じゃあそちらに向かうね」


「うん。お願い」


 海の神のごとく容易く波の流れをコントロールしてみせた宅配員のお姉さんによって沖にまで流される。


「よっと」


 浮き輪から降り、砂浜にいるお母さんのもとに向かった。

 

「よしよし。海はどうだった?」


「楽しかったよ!」


 今日のお昼ごはんはバーベキュー。

 海の砂浜でバーベキューとかすっごく贅沢だよね。

 前世じゃ他の人がいてそんなの出来なかった。

 貸切だからこそ出来ることだ。


「わーい!お肉ー!」


 僕はハイテンションですでに火をつけてくれているバーベキューの焼くところにお肉を並べていく。


「ちゃんと野菜も食べなくてはだめよ?」


「……はい」


 僕あんまり野菜好きじゃないんだよなぁ。

 あ、でも玉ねぎは美味しいよね!


「海老ちゃんもあるけど焼く?」


「あ、うん!食べたいな!」


 わーい。海老ちゃんだー!

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