第20話

 私は呆然と眺める。

 男の子が暮らしているマンションを。

 昨日。

 なかったのだ。

 宅配が。

 それだけで私の心は沈み、何もする気力が沸かなくなってしまっていた。


 ふわっ。

 

 男の子の気配が私を包む。

 私の感覚が男の子の気配をガッチリと捉えていた。

 今玄関が開かれていることを私は感じていた。

 

 バタン

 

 玄関の扉が閉まり、男の子の気配が薄まる。

 あぁ。

 もっと。

 もっともっともっと。

 もっと男の子の気配を感じていたい。もっと男の子の気配に包まれていたい。

 男の子が暮らす部屋から出てきたのは男の子の気配と似たような気配を持った女性。おそらく男の子のお母様だろう。

 しばらくすると、マンションから一人の女性が出てくる。男の子の気配と似たような気配を持った。

 あれが……男の子のお母様。

 私は祈りを。感謝を捧げる。

 男の子を産んでくれてありがとう。

 

 私はいつまで立っていただろうか?

 男の子の薄い気配に浸っていたせいで時間の感覚が最早私の中になかった。


 ふわっ。

 

 いきなり男の子の気配が強くなり、呆然とする。

 玄関が開かれた?

 なぜ?まだお母さんはお帰りになられていないというのに。

 男の子の気配の近くに醜い三人の女の気配を感じる。

 ……まさか?

 私は男の子の気配が醜い三人の女の気配に蹂躙されているのをはっきりと認識した。

 私は進む。


 徒歩、走り、疾走。

 

 私は野生へと帰る。


 手を、足を使い走る。

 

 跳躍。

 

 壁を掴み私は垂直に駆け上がっていく。

 エントランスにはどうやったって入れない。

 ならば壁をそのまま掴み登るしかない。

 私は最上階へと到達し、そのまま駆け抜ける。

 風のように。

 そして見えるは男の子の玄関。

 邪魔な扉なんて蹴り飛ばす。

 止まり、中を見る。

 すると目に入ったのは覆面をかぶった三人の女に押し倒された男の子の姿。

 ……許せない。

 

 その人に何をしていやがるこの下郎がァァァァァァアアアアアアアアアア!!!

 

 地を蹴る。

 地面を大地を。

 私は今。地球に祝福されている。

 稲妻のように駆け抜けた私は覆面をかぶった醜い三人のうちの一人を吹き飛ばした。


「な、何者!?」


 いきなり現れた私に対して驚きの表情を見せた下郎を裏拳で吹き飛ばし、スタンガンを右手に持ち男の子にその覆面をつけた醜い顔を近づけ顔を舐めようとしている生きる価値のないクソ下郎の頭を思いっきり蹴り飛ばした。


「大丈夫。もう安心して私が来たから」


 驚愕に目を見開かせた男の子の子を安心させるように私は手のひらを差し出せた。

 私がここにいる限り男の子に危害なんてくわえさせてなるものか!

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