第9話

 僕は自室に戻り、ゲームPCを再起動する。

 僕が今ハマっているゲームは【エスプリ】という基本的に無料で遊べるMMORPGだ。

 簡単に言うと、知らない人とインターネットを通じることで協力してモンスターを倒したり、クエストをクリアしたり、イベントの順位を競ったりするゲームだ。

 このゲーム最大の特徴として、実際にクエストなどをプレイしているプレイヤーを観戦し、コメントを打てるということだ。


「ふんふんふーん」


 僕は機嫌よく鼻歌を歌いながら新しく実装されたボスを一方的にタコ殴りにする。

 


『やべぇー。やべぇーよ』


『どういうPSしてりゃあんな動きできんだ?』


『私あれに憧れて使ってみたけど、全然上手くいかなかった。何も出来ずに死んだわ……』


『そりゃそうだwwwあんなん出来るの変狂くらいだわwww』

 

 画面上で高速にコメントが流れていく。

 僕の使用キャラは使用率最下位、勝率一位というバグキャラ。

 このゲームでは珍しい、というか唯一の女キャラで操作方法は激ムズ。

 どっかで巨人を駆逐していそうな腰につけられたワイヤーが伸びる装置に、一本の刀と拳銃を持った可愛らしい女の子。

 ワイヤーを使った高機動に刀と拳銃を用いて連撃攻撃は驚異的の一言。

 だがしかし、紙装甲。圧倒的紙装甲。敵の攻撃一発でお陀仏。

 操作性の難しさは抜群。相当な数使わなければまともなプレイなど出来ないだろう。

 そして、この世界の女性が女キャラを何度も何度も使うことなどない(断言)。

 それ故にこのキャラは僕専用キャラとなっていた。


「ふぃー。終わり」


 5分後。

 僕は一度も相手の攻撃を食らうことはなく、ボスを倒しきった。



『やべぇーwww』


『完勝www』


『最も参考にならないボス攻略www』


『いや、ボスの攻撃パターンは全部見えたし、参考になるだろ』


『マジレス乙www』

 


 ……。

 …………。

 流れてくるコメント前世とおんなじような内容なんよなぁー。

 僕はクエストを完了させ、ホームに戻る。


「お?」


 僕はフレンドからDMが届いていることに気づく。


『仮面さん。氷餓狼王の素材集めしたいので、手伝ってくれませんか?』


 相手はいつも敬語の水面。


『いいですよー』


『あリがとうございます!……えーと』


『あ、いつもどおり観戦オフにしますね』


『あ、ありがとうございます!』


 このゲームの醍醐味とも言える観戦・コメント機能だが、オフにすることも可能。

 前回のイベントも前々回のイベントも更に前も……と、長らく一位の座に君臨している僕の知名度と注目度はかなり高い。

 そんな僕がクエストに行った際の観戦者数はかなり多い。

 そんな沢山の人に見られながらゲームをするのを快く思わない人は結構多いだろう。

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