第6話

「ハァハァハァ」


 私は思うのだ。

 なんで人間は二足歩行なのかと。

 本能を開放しろ。

 本能をむき出しにしろ。

 地を蹴る。

 大地の大いなる加護を感じる。

 私は進化する。

 自然と手は大いなる大地の方へと伸びる。

 一歩二歩三歩四歩。

 駆け抜ける。

 犬のごとく。

 立ちふさがる障害をすべて破壊しながら。

 対象者である男の子が手に持ち構えていた銃が振動する。

 私の目に映るのは一つの点。

 跳躍。


「ふぇ?」


 私は点を回避し、天井を蹴る。

 部屋を揺らしながら私は第二次世界大戦で活躍した急降下爆撃機のごとく男の子に襲いかかる。


「ひやぁ」


 確実に男の子を捕まえたと思った私の手は空振りに終わる。

 私のすぐ近くで男の声が、吐息が私の耳を優しく震わせる。

 私の五感すべてが男の子を捉え、第六感が開花する。

 手をのばす。

 空間を震わせながら伸ばされた私の手が男の子に掴まれる。

 

 ほわぁ。

 

 脳が幸せに包まれる。

 男の子の体温だぁ。

 

 ドシン!

 

 幸せに浸っている間に強い衝撃が私を襲う。

 もう私の手に男の子の体温は感じない。


「……っ」


 私はいつの間にか壁に叩きつけられていた。


「シッ!」


 私の目に映るのは注射器を手に持ってこちらに突っ込んでくる男の子の姿。

 ふぉほ!?そっちからきてくれるんでちゅか!ふぃや!さぁわ、わたしゅと新しい世界へと飛び立たんと。


「はぅ」


 私の腕に注射器が打ち込まれる。

 異物が私の中に流し込まれるのを感じる。

 意識がかすれる。

 まぶたが持ち上がらなくなる。

 ……。

 …………。

 落ちる落ちる落ちる。

 私の意識は闇の中へと落ちていった。

 

 ■■■■■

 

 ん。んぁ。

 ん?なんかすーすーすっ!?

 

 ガタガタ!

 

 私が獲物の匂いを気配を存在を感じ動き出そうとしようとするも出来ない。


「あ、暴れないで」


 私の目の前に立っているのは頬を赤らめ、挙動不審な小さな少年。

 年はいかほどだろう?

 11歳2ヶ月4日6時間4分2.36秒だろうか。

 ぱっちりと開かれた大きな瞳に短い黒髪。

 中性的ではあるものの、その顔は彼が男の子であるということを遺憾なく感じさせた。


「ふごふご」


 私が言葉を話そうとすると、上手く喋れない。

 ここでようやく気づく。

 私の口が塞がれていることに。

 口だけではない。

 私の体ががっちりと椅子に縛られ、固定されていた。

 それだけでなく、私の服は脱がされブラとパンツだけという下着姿にされていた。

 あぁ。下半身が濡れる。

 パンツがびちょびちょだぁ。


「え、えっとここは僕の部屋」

 

 ガタン!?

 

 男の部屋!?あの伝説の!?

 私は急いで辺りを見渡す。

 男の部屋ァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!

 私が縛られている椅子は部屋の中心に置かれているそれ故に容易に部屋を見渡せた。

 首を360度回転させ、部屋をじっくりと見る。


「ひぃあ!?」


 まず目に入るのが壁にかけられたたくさんの武器たち。

 その次に目に入るのは机の上に乗せられたゴテゴテとした機械。

 それから────


 パン!

 

 銃声が鳴った。

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