第5話

「はぁー。こんなマンションに住んでいるような人でも出前するんだな」


 私はこの市で一番高い高層ビルであるマンションを見上げる。

 今回注文を受けたのはこのマンションの最上階。

 私は柄にもなく高いマンションのエントランスに若干の緊張を感じながらインターホンをならす。


「あ、出前家です」


 私の言葉に対する返事はなく、マンションの自動ドアが開けられる。

 ……。いいけどね。

 私は大人しくマンション内に入る。

 せめて一言くらい返事をしてくれてもいいのではないだろうか?

 私だってこの熱い中配達しているのだ。

 ねぎらいの気持ちとかも込めて何かしらの返事をしてくれてもいいのではないだろうか?

 私は不満に思いながら、ホテルのようなマンション内を歩く。

 エントランスの中央にデカデカと置かれたエレベーターの前に立って待つ。

 うーん。すごい浮いている。

 ……。

 …………。

 ……何故だろう……そわそわする。

 本能は目覚める。

 この感覚はなんだろうか。よくわからない。でも、覚えならある気がする。

 私の中の本能が目覚め、とにかく落ち着かなかった。

 

 チン

 

 ようやくエレベーターが来たので私は乗り込み、最上階のボタンを押す。

 ……。

 …………。

 そわそわする。よくわからないけど心臓が痛いくらいに活動している。

 本当にどうしたというのだ?

 のどが渇いて渇いて仕方がない。

 

 チン

 

 エレベーターが最上階にたどり着く。

 私はエレベーターから降り、一歩。また一歩と足を進めていく。

 ……。

 …………。


「はぁはぁ」


 息が切れてくる。

 そわそわする。

 本能がぞわぞわする。

 背中が汗でぐちょぐちょになっていて気持ち悪い。


 私はたどり着く。

 部屋の前に。


「はぁはぁ」


 息切れは更にひどくなり、手汗も、脇汗も、背中の汗も本当にひどいことになってしまっている。

 手が震える。

 体が震える。

 震える手でインターホンを私は押した。


 ピンポーン。

 

 応答はない。


「はぁはぁ」


 私の息の音だけが響く。

 そして、気づく。

 玄関のところに小さな紙がはみ出ていることに。

 


『鍵は空いているので、入ってきてください』


 

 女の子らしくない丸くてきれいな文字でそう書かれていた。


「はぁはぁ」


 私は震える。

 これは開けていい扉なのか?

 ……だが、私には開けないという選択肢はない。

 ここには仕事できているのだ。


「すーはー」


 私は深呼吸をしてから、意を決して扉を開けた。

 そこにいたのは─────


「ほねぽほべてきこませみややぷてれくちゃぎぴぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 私は絶叫する。

 脳がバグる。

 下半身がびちょびちょになる。

 私の目に映るのは男の子。

 可愛い男の子。

 なるほど。ここまで来るまでの感覚の理由はこれか。

 幼稚園生のときに男の子を目にする数分前に感じたときの感覚だ。

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