第4話
『はーい。今開けるなーいつもどおりお願いね』
オートロックのインターホンから男の声が聞こえてくる。
「……んっ」
はぅ!幸せが私の耳から入り、すべてを蹂躙する。
触覚が全能の域に達する。
腰が砕け、昇天しそうになるのをなんとかこらえる。
答えなくては……!無視するわけにはいかない……!
「……はい」
私はなんとか言葉を絞り出す。
私の答えの後、自動ドアが開きマンションの中に入ることが出来るようになった。
それと同時に私の触感が捉えていた視線が消える。
あぁ。
私の思考が徐々に現実に戻ってくる。
行かなくては待たせるわけには行かない。
私は急いで廊下を歩き、階段を駆け抜ける。
彼が住んでいるマンションの階層は50階!
当然私の手に握られている商品を汚すような真似はしない。
これは彼の口に入る聖遺物なのだ。
……あぁ。私も彼に食べられたい……。
私は彼が住んでいるマンションの一室の扉の前に立つ。
私の脳が、私の意思が、私の本能が、
旅立つ。
感じる……。
この一枚の鉄の壁ごしに。
彼の気配を……。
彼の存在を……。
彼の吐息を……。
あぁ。
この柔らかい鉄の壁に穴を開け中に入り、彼を何度も何度もぶち犯すことを想像する。
何度も何度も繰り返し妄想する。
しかし、現実には起こさない。
鉄の理性が。彼に忠誠を誓った鉄の理性が堪える。
我慢しろと。
たった一瞬の快楽を求めてすべてを無に帰すつもりか。
私は彼と結婚するのだ!
私はかすみゆく理性を頼りに、震える手をゆっくりと伸ばしインターホンを押す。
ピンポーン
インターホンの軽快な音がこだまする。
それと同時に、彼の視線が私を見ていることを感じる。
胸元に視線を感じる。
ホワァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
理性が吠える。
だが、しがみつく。
耐え抜く。
彼の最早ぶち犯していいよと言わんばかりの誘惑を願として耐える。
彼との約束通り持ってきた商品を玄関の台にゆっくりと乗せる。
台に乗せられたお金を回収し、背を向ける。
くはっ。
私は内心吐血しながら彼の部屋から離れる。
エレベーターに乗り、下に降りていく。
そして、一階にたどり着く。
もう彼の存在をあまり感じられない。
はぁー。今日も終わった。至福の時間が。
私の脳が、私の意思が、私の本能が萎えるのを感じる。
理性は安堵する。
また明日だ。明日この時間のために私は今日を生きる。
思い出とともに!
私はいつもどおり彼と初めて会った運命の日のことを思い出した。
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