第41話 側室アイカ
アイカは顔を赤くして、頬を膨らませた。
「わかっています。でも、レンリ様の一番が殿下だとしても、わたしだってレンリ様の子どもを産むことはできるんです」
「あ、アイカにはまだ早いかな……」
レンリが慌てて言うと、アイカはそっと身を寄せた。
そして、上目遣いにレンリを見る。黄金色の瞳は潤み、その小さな唇は朱が差していた。
アイカの幼さと妖艶さのまじった表情に、レンリはどきりとする。
「わたし……もう十分に大人です。13歳ですからレンリ様の子どもだって産めます!」
「それはそうだけど、そのためには……」
アイカとそういうことをする必要がある。リーファとは自然とそういう関係になったけれど、リーファは17歳。少女とは言え、大人に近い。
リーファをちらりと見ると、リーファはわざとらしく胸を隠した。そして、ジト目でレンリを見る。
「いま、私とアイカさんを比べましたね?」
「そ、そんなことしていません!」
「私のほうが胸も大きいですし」
リーファはくすっと笑った。アイカはますます対抗心を燃やしたのか、金色の瞳を燃えるように輝かせて、レンリとリーファを睨んでいる。
そんな目で見つめられても、リーファは余裕のようだった。
「私はレンリさんとアイカさんがそういうことをしても、気にしませんよ。だって、私がレンリさんの一番ですから」
リーファは自信たっぷりに言う。
アイカは目を伏せて、そして、ぎゅっとレンリの服の袖を握った。
「わたし……レンリ様に抱かれるつもりでここに来ました。覚悟はできています。だから……わたしを拒絶しないでください」
レンリは迷った。ここまで言われて、アイカの言葉をただ否定するのはできない。
けれど、ここでアイカの願いを聞くことが、アイカのためになるとは思えない。
レンリはぽんとアイカの肩に手を置いた。アイカはびくっと震える。レンリに押し倒されると思ったのかもしれない。
けれど、レンリにはそんなつもりはない。レンリはなるべく優しい表情を作った。
「アイカが俺の側室になってくれるつもりなのは嬉しいよ」
「なら……」
「でも、アイカは俺の弟子だ。科挙に受かって官吏になってほしい。それが約束だったからね」
アイカは目を瞬かせ、うつむいた。
「わたしもそれを目標にしてきましたし、今でも夢ではあります。でも……科挙なんて、もう二度とないかもしれないんですよ?」
帝国は滅亡の瀬戸際に立たされている。とても科挙で官吏を登用している場合ではない。
明日には帝国が滅び、リーファやレンリの命もないかもしれない。
「わたし……もう待てないです! レンリ様もわたしも、明日には死んでしまうかもしれないんですよ?」
「そ、それは……そうだけど」
「お妃様のライラ様みたいに、翼人に捕まって性奴隷にされてしまう可能性だってあるんです。そんなことになる前に、わたしの初めてをレンリ様にもらってほしいなと思ったんです。でも……そんなに、わたしには魅力がないですか?」
「いや、むしろアイカはとても可愛いけれど……」
レンリは言ってから失言だと思った。アイカがぱあっと顔を輝かせたからだ。
リーファも面白そうに横から口をはさむ。
「あと五年経ったら、アイカさんは絶世の美女になっているでしょうね。北方の生まれ人は美人揃いですから」
「そうなったら、リーファ殿下も、わたしのことを警戒しないといけないですね」
アイカが強い意志のこもった瞳で、リーファを見つめる。リーファはくすくす笑った。
「そうですね。でも、今はまだ、あなたはわたしの脅威ではないですから」
「……五年後なんて、待つつもりはありません!」
アイカはもともと薄い布を羽織っていて、それで胸と下腹部を隠していたが、上半身の服を脱ごうとしたのだ。
慌ててレンリが押し留めようとするが、ときすでに遅く……。
それと同時に、部屋の引き戸が勢いよく開く。
そして、銀髪の少女サーシャが入ってきた。
「大変です、レンリ様! ……あれ?」
サーシャは、レンリ、リーファ、そして、半裸のアイカを見比べた。
そして、顔を赤くする。
「こ、これはどういうことでしょうか?」
「レンリさんは、アイカさんを抱こうとしていたんですよ」
リーファはからかうように言い、アイカは頬を恥じらうように、胸を手で隠していた。
サーシャは衝撃を受けたようだったが、気を取り直したのか、咳払いをした。
「レンリ様……急ぎの報告があります」
「ええと、なに?」
「翼人の支配地域から、二人の女性が逃げてきて、保護を求めています」
「重要人物なんだね?」
「はい。一人は帝国にとって高貴な方ですし、もうひとりはレンリ様にとって大事な方かと思います」
レンリとリーファは顔を見合わせた。一体誰のことだろう? 服を着直したアイカも首を傾げている。
サーシャは銀色の瞳を光らせ、重々しく口を開く。
「一人は先帝の寵妃ライラ様、そしてもうひとりはレンリ様の婚約者の妹セリン様です」
☆あとがき☆
ライラ再登場……!
面白そう、続きが気になる……という方は、
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