第38話 あなたをわたしのものにします
<まえがき>
前話のとおり、実際にはセレカは生きていますのでご安心を!
<まえがき了>
報告では、セレカは死んだという。レンリは信じたくなかった。
「セレカが死んだ……」
レンリはつぶやいた。
覚悟はしていたことだった。
帝都が翼人の手に落ちたと聞いたときから、予想できないことではなかったからだ。
それでも事実として聞くと、衝撃だった。
十年来の年下の友人で、良い相談相手で、婚約者だった女性が死んだ。
遠慮がちに、セレカの死を告げた兵が言う。
「誤報、ということもありえます。処刑されたということになっていても、実は生きているのかもしれません」
「ありがとう。だが……たしかに翼人に処刑された高官として、制札に名前が載っていたのだろう?」
兵は押し黙った。
セレカの立場を考えれば、殺されて当然だ。
彼女が殺される前にどんな目にあったか、レンリは考えたくもなかった。
レンリはよろよろと立ち上がり、リーファとサーシャが心配そうに二人を見つめた。
しばらく一人になる、と告げて、レンリは自室に戻った。
そして、寝台の上に寝転がる。
天井が、レンリを無機質に見返していた。
さっきの兵によれば、翼人の副都遠征も近々計画されているという。
本当だったら、そのための対策をすぐにでも考えなければならない。
だが、レンリにはその気力はなかった。
(セレカ……)
どうしてセレカともっと一緒にいなかったのだろう?
失ってはじめて、レンリはセレカの大事さを噛み締めた。
セレカは美人で、とても優秀だった。だが、それより重要なのは、平凡なはずのレンリのことを理解し、高く評価してくれていたことだった。
必ず翼人には復讐しなければならない。
だけど、今は、セレカのことを想って泣いても誰も文句は言わないだろう。
レンリは絶望と怒りがうずまく胸中を、どうにか抑えようとした。
起き上がり、酒を煽るように飲む。
そして、かなりの時間が経った。
まだセレカを喪った悲しみが癒えたわけではない。
が、気分は落ち着いてきた。かなり酔ってしまったが。
皇女リーファを、従者のアイカを、友人のミランを、部下のサーシャを、今度は失わないように守らなければならない。
そのとき部屋の扉が遠慮がちに開かれた。
「レンリさん……いらっしゃいますか?」
そこに立っていたのは、皇女リーファだった。
着替えてきたのだろう。
さっきまでと違い、艶やかな薄い絹の服を着ている。
衣服は薄く、胸元ははだけ、そして白く美しい脚が大胆に見えていた。
黒い髪が、十七歳にしては豊かな胸の膨らみにかかっていて、扇情的だった。
レンリは狼狽した。
「殿下……その格好はどうなさったのですか?」
「リーファ、でしょう?」
リーファがいたずらっぽく、白い人差し指を唇に当てた。
そうだった。
レンリはリーファのことを名前で呼ぶと約束していた。
「ええと、リーファ様。その格好で男の部屋に来るのは、少し感心しませんね」
「お話があって来たんです」
そういうと、リーファはレンリの寝台に腰掛けた。
レンリのすぐとなりだ。
「セレカは……」
リーファは言葉を紡ぎかけて、口ごもった。
レンリがリーファの瞳を見ると、リーファの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「セレカは、私にとっても大事な師匠だったんです」
「……そうでしょうね」
その意味で二人は悲しみを共有している。
もうセレカは戻ってこない。
「セレカの敵、絶対に私たちでとりましょう」
「もちろんです」
「そして、二人で救国の英雄になるんです」
リーファはレンリを熱っぽく見つめた。
その唇のみずみずしい赤さにレンリはどきりとする。
「セレカがレンリさんの心の支えだったことは知っています。セレカのことをきっとレンリさんは忘れられないと思うんです。でも……」
「でも?」
リーファはためらい、そして頬を赤く染めた。
「でも、私でも、少しだけなら、セレカの代わりにレンリさんを慰める事ができると思うんです」
そういうことか、とレンリは思った。
リーファが大胆な格好で、一人でレンリの前に現れたのは、抱かれようと思ったからなのだろう。
「私以外の皇族は死んでしまいました。だから、次の皇帝となる世継ぎも必要です。つまり、私が……子を孕む必要があります」
「それは急がなくても良いことだと思いますよ」
「でも、明日、どうなるか、わからないんです。私も、レンリさんも。なら……私は、初めてをレンリさんに捧げたいんです」
「本当に、その覚悟があるんですか?」
「子どもを生むなら、レンリさんの子どもがいい。ううん、建前なんていりませんね。私はレンリさんと一つになりたいだけなんです。私は……レンリさんのことが好きですから」
そして、リーファはレンリの唇を強引に奪った。
甘い香りにレンリはくらりとした。
ただでさえ、酒のせいで思考がまとまらないのに。
レンリは必死で理性を保とうとした。
リーファはきっとここで、押し倒されることを期待している。
でも、その期待に乗るわけにはいかない。
皇女の結婚にせよ妊娠にせよ、政治問題だ。
慎重に考える必要がある。
何より、リーファはレンリにとって大事な存在だった。
レンリはリーファを手で優しく押し返すと、その瞳を見つめた。
「リーファ様の気持ちはうれしいです」
「なら……」
「ですが、セレカが死んだばかりです」
あっ、とリーファは声を上げた。
亡き婚約者に義理立てする、と言われれば、リーファもこれ以上、迫ることはできない。
レンリは微笑んだ。
「ですが……リーファ様の配偶者として、俺を選んでいただけるとのことについては、お受けしようと思います」
リーファは目を見開いた。
そうすることが、現状では最も適切な選択のようだった。
尚書令カラムのようにリーファの体を狙うものがこの先、現れないとも限らない。
副都の帝国軍をレンリが指揮し続けるなら、次期皇帝のリーファの身柄を押さえておくことは絶対に必要だ。
それに何より、レンリはこの美しく健気な少女のことが大切だったし、できるかぎりそばで守りたいとも思っていた。
リーファは瞳をうるませ、恥ずかしそうに小声で言う。
「これからはレンリさんは私の臣下の将軍であるとともに、私の大事な人、でもあるわけですね」
「臣として、また夫として、リーファ様を守ることを誓います」
「あの……もう一回だけ口づけをしてもらってもいいですか? 今度はレンリさんから」
上目遣いにリーファはレンリのことを見つめていた。
期待するように、リーファの瞳は熱を帯びていた。
レンリはリーファの唇に、自分の唇をそっと重ねた。
口づけが終わると、リーファは顔を真赤にして、そしてレンリにささやいた。
「レンリさん、あなたを……わたしのものにします」
<あとがき>
セレカも含めて、これからハーレムが加速する予定なので、よろしくです!
また、ラブコメ『女神な北欧美少女のクラスメイトが、婚約者になったらデレデレの甘々になってしまった件について』
もよろしくお願いします!
↓のURLです。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859171173499
北欧美少女クラスメイト、美人お嬢様の幼馴染、一途に主人公のことが好きな女友達……のハーレム要素もありですので宜しくお願いします!
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