第37話 セレカの運命
帝国の若き女官僚セレカは、鎖に手足を縛られ、ボロボロの布切れ一枚をまとっていた。
ここは帝都のセレカの屋敷で、その片隅の蔵にセレカは放り込まれていた。
セレカの実家は八柱国という大貴族だが、すでにセレカ自身が官位を得ているので、独立して屋敷を持っている。
セレカは、科挙の試験を今年受ける妹のセリンと二人暮らしだった。妹に勉強を教えていたのだ。
セリンは姉であるセレカから見ても、美しく利発な少女で、15歳にして科挙の合格間違いなしと言われていた。「いつか姉さんを超えるの」と言って、セリンはいつも楽しそうに笑っていた。
そのセリンはすでに翼人たちの奴隷とされた。
帝都陥落後、翼人たちが屋敷に踏み込んできて、セリンを拘束したのだ。そして、翼人たちは下卑た目でセリンをじろじろと見て、その腕をつかんだ。「姉さん、助けて!」と叫ぶ妹を、セレカは助けることができなかった。
セレカは涙を流して翼人たちに自分が代わりになるから妹には手を出さないでほしいと懇願したが、無駄だった。
セリンはその場で衣服を剥がれ、その美しい体を翼人の男たちに順番に蹂躙された。悲鳴を上げ犯されるセリンを、セレカは見せつけられ、気が狂いそうだった。
やがて気を失ったセリンは別室に連れて行かれ、しばらくしてふたたび彼女の悲鳴と嬌声が聞こえた。それ以後、セレカはセリンに会えていない。今は別の場所に連れ出されて、性奴隷として扱われているのだろう。
自分にも同様の運命が待ち受けていることをセレカは覚悟した。
ところが、翼人たちはセレカの衣服こそ奪い、捕虜として自由を奪ったものの、その身体には指一本触れようとしなかった。
それはおそらくセレカが皇宮中枢にいる高級官僚だからだ。
五品官の翰林院侍読学士という地位は、帝国の機密をも知る立場にある。
利用価値がある、と判断されたのだろう。
それでも、状況が変われば、いつ命を奪われても、あるいは奴隷にされてもおかしくない。
真っ暗な蔵の中で、セレカは翼人たちの処断を待つほかない。
(レンリ……)
心のなかで、セレカは想い人の名前を呼んだ。
こんなことになるのなら、もっとレンリと一緒にいればよかった。
大秀才に生まれても、十年に一度の秀才と呼ばれても、若くして高官になっても、一つ運命が狂えば、自分や自分の妹の身を守ることすらできない。
セレカは自分の無力さに歯噛みした。
不意に蔵の扉が開け放たれた。
外から日光が差し込み、まぶしさに目がくらむ。
そこに立っていたのは、翼人の大男だった。
黄金色に輝く鎖は、その身分の高さを示していて、何人もの従者がいた
セレカはきつく男を睨みつけた。
たとえ、どんなことをされようとも心まで折れるつもりはない。
男はゆっくりと、帝国の言葉を話した。
「私はカラルク=ワンヤン。翼人の王だ」
意外さに、セレカは息を呑んだ。
カラルク=ワンヤンといえば翼人の最高権力者だ。
「君はセレカという名前だね?」
セレカは何も答えなかった。
無言を肯定ととらえたのか、カラルク王は自らセレカの鎖を外した。
「君の友人のレンリという男が、我ら翼人に歯向かっている」
「レンリが? ……生きているの?」
「そのとおり。副都を拠点に、リーファとかいう皇女を擁して、我らと戦うつもりらしい」
セレカは安堵のあまり泣きそうになった。
最悪の場合、レンリたちも死んでいる可能性があると思っていたからだ。
「君はすでに公式には死んだことになっている。貴族派の官僚団はすべて処刑し終わった
。もっとも、若い女性は表向き殺したことにして、兵士たちに配分しているわけだが」
奴隷としての用途があるからだろう。
であれば、これからセレカもそのような運命をたどるのか。
(レンリ……ごめんなさい)
セレカはぎゅっと目をつぶった。
が、カラルクの言葉は意外なものだった。
「君には副都遠征へとついてきてもらう」
「なぜ?」
「一つは我らの道案内だ。もう一つは……」
にやりとかカラルクは笑った。
「レンリという男は生け捕りにして、残忍な方法で処刑するつもりだ。そのまえに彼の目の前で、君を兵たちに辱めさせよう。そして、彼は君の前で殺される。いい趣向だと思わんかね?」
要するに、セレカは翼人の王の嗜虐嗜好に利用されるらしい。
だが、それは救いの言葉でもあった。
可能性は薄いが、なんとかして、レンリと生きて会えるかもしれない。
レンリがカラルク王に勝利し、そのときまでセレカが生き延びていれば、希望はある。
(きっとレンリは……私が死んだと思っているよね。でも、私は生きていて、レンリのことを想っている)
翼人の男たちに強引に引き立てられ、セレカは蔵から連れ出された。
だが、その瞳には強い意志の光が宿っていた。
☆あとがき☆
セレカは今後もヒロインとして活躍予定なのでご安心ください(妹のセリンも再登場予定です)。
ラブコメ『女神な北欧美少女のクラスメイトが、婚約者になったらデレデレの甘々になってしまった件について』
も新たに投稿はじめました!
↓のURLです。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859171173499
フィンランド人の美少女クラスメイト、お嬢様の幼馴染、一途な女友達……のハーレム要素もありですので宜しくおねがいします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます