答え合わせ 2


「そいつだよ。俺の家を半分乗っ取った術士」


『そいつ』とは。

 わたしが今抱えている、猫のような姿をした『被害者』だった。


「……は?」

「生徒になりすましてたのさ。術か何かで」

「はぁぁぁぁ!?」


 そんなバカなこと、…………あるかも。

 だって最後の一人の被害者の情報、ここの学校の生徒ということしか思い出せない。男か女か、何年生なのか、顔もわからないまま、なのに

 外部の人間『黄昏堂』すら、暗示がかけられてたってこと? プロが簡単に暗示をかけられてたのも怖いが、何より怖いのは動機だ。

 

「何で? 何で術士が生徒になりすまして蠱毒に突っ込むの? 自殺行為っていうか自殺そのものじゃん??? 勝っても負けたヤツの肉体と意識が混ざって、自分の肉体の原型も意識も殆ど無いんだよ? イカれすぎっしょ!?」

「さあね」


 けど、と『鏡』は言った。


「そいつ、かなり身体を弄り回されている。魂の形からして、おおよそ七つ。となると、下手すりゃ赤子の時から改造されてんだろ」


 身体を弄り回されている。七つ。赤子から。

 それがあまりにも淡々と語られるから、わたしはうっかり、右から左へ流すところだった。

 まさか、この子のこの姿は、身体を改造されて?


「……言っとくが、俺のところに来た奴は、別の――まだちゃんと『人間の形』をした術士だった。どうやら後から来たそいつは、半分乗っ取った世界を引き継ぎされたらしい。

 他にも共犯者がいるんなら、『黄昏堂お前たち』みたいに組織ぐるみなんだろう。そいつのバックボーンが、かなりイカれてるっていうのが妥当じゃね?」


 わたしはほぼ反射的に応えた。


「その、バックボーンって、一体?」

「さあね。術が解けるんなら、そいつに聞いてみなよ。……そいつの身体が、


 ……わたしは、猫のようになったその身体を抱きしめる。

 心臓の音が脈打つ。不安になるぐらいか細い鼓動。でも、あたたかい。それを一つ一つ確かめるために、わたしは一旦目をつぶる。

 そしてしっかり見開いて、ふたたび『鏡』に向き合う。


「それで『鏡』が、どうして黒田君の真似を?」

「まあ俺も聞いた話だけど。蟲じゃない『蠱毒』って言うのは、ただ入れるだけじゃダメなんだそうだ。決められた数が必要で、今回の場合は七だったな。それより少なくても多くても発動しない」

「七……」


 被害者は三人。そして生徒に成りすました術士が一人。黒田君。『鏡』。そしてわたし。階段の怪異は、多分階数を言及したわたしだった。七つ目の「人知れず不幸になる」怪異は、『鏡』によって保護され、成りすまされた黒田君だろう。

 まあ途中で、ケイが乱入しているんだけど。数の条件は、あくまで発動時、ということか。


 ……そうだ。で、蠱毒の条件は壊れていたはずなんだ。



「蠱毒の儀式の条件が満たされれば、後は殺し合いだ。だが儀式が始まらない限り、被害者たちは外に出られない。

 そんな時、黒田が『黄昏堂』に依頼するために、怪奇現象を撮影するなんて言い出した。『黄昏堂』の噂は聞いてたから、一か八かかけたのさ」

「だから君は、黒田君を保護して、黒田君のフリをしていたのか……」

 自分のパソコンの中に、アバターを作るようなものだ。

「ん? でも君、今も普通にいるよね? ここもう、鏡の世界の校舎じゃなくて、現実の屋上でしょう?」

「みたいだな。言っておくけど、今までできたわけじゃねえぞ? アバターが鏡の外に出られるんなら、こんな賭けには出てねーし」

 つまり、本人にもわからないということか。

 蠱毒の『壺』として使われたということで、何か異変が起きたのかもしれない。


 まあ、それは後で報告書を書くときに考えるとして。

 ここでは、『事件の収束』を考えないといけない。



「それで、この事件の公表の仕方なんだけど」


 わたしが言い切る前に、『鏡』が先回りした。



「――『黄昏堂』としては、妖怪が起こした事件として公表は出来ないけど、噂としては流すことが出来るから、俺に濡れ衣を着せるって?」


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