最後まで発狂するんじゃない
エンディング-1
◆
「悪夢であった」
遥か海底奥深く、悠久の時を封印されしクトゥルフは、微睡みの中意識を取り戻した。
ようやく、地球のルルイエの、かの祭壇にて。
「おお! おお! 御帰還賜り感の極み、我らが主よ!! 地球の大いなる正当な支配者よ!!」
ダゴンが大声で叫ぶように、感嘆の声と共にクトゥルフの前に出て跪きます。
「ああ、今戻った。余は、悪夢を見ていた……
みんなの無事を確認しクトゥルフは胸をなでおろします。
結局のところ、全てはニャルラトホテプの匙加減だったのか、あるいは彼すらも飲まれる謎の何かにしてやられていたのか。
「しかし、かの世界、悪夢は終わったのだ。今は……しばし安寧と微睡みの中で過ごすこととする」
祭壇は慣れ親しんだ石材の硬さを、日の射さぬ海底の海水が冷たさを、それぞれクトゥルフに伝えて来ます。
ああ、布団だけは良い世界であった、などと。
微睡みの中で暗い水底を見つめるクトゥルフに、ダゴンが言います。
「して、如何なさいますか?」
「とは?」
クトゥルフはダゴンに視線も向けずに、質問の意味を聞きます。
ダゴンは怒りを抑えるように震えながら答えます。
「無論、這い寄る混沌めへの報復です!」
クトゥルフは、焦がし醤油の風味を思い出しながら返します。
「捨て置け」
これに食い下がろうとしたダゴンへ、クトゥルフは続けます。
「ニャルラトホテプとは、既に休戦となった。彼奴めの顔を一つ食った後だがな」
この一言は、ダゴンとハイドラをはじめとしたインスマス全体に、どよめきをもたらし、次第にそれが勝利を祝う勝鬨の声とへ変わっていきました。
休戦、とはいえ、クトゥルフがニャルラトホテプを喰った、と……嘘は言ってない。
インスマスの勝鬨の声を聴きながら、クトゥルフは今一度眠りに着こうと意識を微睡みに沈めていきます。が、ふと気になり、ダゴンへ一言言うために体を起こします。
「そうだ、ダゴンよ。無駄死には不要。その忠義、誠に大儀であった」
ダゴンはクトゥルフの礼を労う言葉に打ち震えながら、その前より下がりました。
そうして、あの地獄の如き宴会や阿鼻叫喚の日常の無い、また無限に近い眠りへ至れる静寂がクトゥルフを包みます。
あの世界には、もう二度と行くことはない。正直少し寂しい? いやいや、ニャルラトホテプを“鯨”として食べるような異世界人など、もしかすると本当にクトゥルフを食べ始めかねないのでは。
そう思うと、これで良かったのだと、微睡みの中で邪神は思いました。
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