第八話 最終話にタイトルコールが無いことはそれ自体がタイトルコールだと思う
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「御免!」
誰かが頬を叩く衝撃で、クトゥルフは目が覚めます。
「痛いっ!」
見れば、目の前にはダゴンが必死の形相でクトゥルフの前で
どうやら、かなりの緊急事態である様子。
「ご無礼をお許しください。しかし、夢の中に沈まれるには、いささか事は急を有しております。後々、毒を呷り責を負いますので今はご容赦を」
「え、いや、そこまでしなくていいんだけども……で、なに? ああ、無礼講で良いから要件を」
ダゴンは恐る恐るという具合に口を開きます。
「先の地球人の雄の話です。あの者が持ち込んだ話、
「様子? 余の?」
「ずばり、我らが主は、這い寄る混沌めに精神攻撃を受けているという話です。気に恐ろしく度し難いことながら事実であるならば」
「あ、うん。事実事実。絶賛夢の中でピンチ」
「おお、お
ダゴンはニャルラトホテプへの罵詈雑言と思われる雄叫びのようなものを発します。
ハイドラがダゴンを諫めながら、クトゥルフに言います。
「我らが主よ。偉大なる地球の真なる支配者よ。かの混沌めはあなた様の言動に干渉し、かくも……その、威厳を欠いた物言いをさせられ……それだけではなく更に精神世界ですら攻撃を止めないとは。一体何が起きているのですか?」
「え? 威厳が無い? ……あれ?」
そういえば、なんだが言い方がラフな感じに、九十郎っぽくなってるような?
ダゴンが更に怒りを叫びます。おそらく、地球では今地震が、津波が発生していることでしょう。
対照的に、クトゥルフは冷静に事態を理解し始めていました。
「何とはなしに、余が九十郎になっていっているのか、あるいは今ここに九十郎が来ているのか……あ、いや、九十郎に入り込んだ余が見ている夢なのか……どっちにしても、向こうの余に何かあると、地球の本体も無事では済まなさそうだな、これは」
クトゥルフは意識を深く沈めていきます。心を静め、意識を鎮め、今一度あの世界へ。
「じゃあ、ちょっと行ってくる……あ、いや」
クトゥルフは言葉を選び直します。
さっき威厳が無いとかなんとか言われたのが気にかかり、何か、ここで尊敬されそうな言い方をと、普段だったらサラサラと出て来ていた硬い言葉遣いが出にくくなっているのは、やはりニャルラトホテプのせいなのでしょうか。
そんな彼の頭にピッタリだと思う言葉が浮かびます。そして、それを口にしました。
「I’ll be back!」
そう口にしたクトゥルフ自身、自分が何を口走ったのか、一瞬解りませんでした。
更なる怒りから暴れだすダゴンと泣き崩れるハイドラを後に、クトゥルフの意識は異世界へと飛びました。
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