第四話 挨拶前の狂気判定は一度までなら許される
4-0
◆
遥か深淵の奥彼方、ルルイエの祭壇にて、クトゥルフは目覚めました。
「はっ! ゆ、夢か……悪夢だった」
その緑色の肌に玉のごとき汗を浮かべ、悪夢から目覚めてもなお封印の倦怠感に包まれながら、祭壇の上でゆっくりとその身をねじり寝返りを打ちます。
その様子を眷属であるダゴン……家ほどの大きさがある巨大な魚人が、その虚ろな目で見つめます。とはいえ、クトゥルフは山より大きいので、サイズ感がいまいち掴みにくいですが。
「ああ、ダゴンじゃないか」
「お目覚めですか? ずいぶんと
「うむ、悪夢であった……いや実に、そう、恐怖を覚えたよ」
「悪夢を見せるお方が悪夢に
と、ここでクトゥルフにとあるイメージが浮かびました。
「ん? そういえば、ここ最近、似たようなことがあったような?」
「似たようなこと、ですか? 如何なることでしょうか?」
「こう、“悪夢から目覚めたけど、そこはまだ夢の中の夢で、調理された眷属と対話する”とかいう……とか……ま、まさか!?」
「まだ夢心地なのですね。御辛そうだ……」
ダゴンの姿を見て、クトゥルフは驚愕しました。
なんと、真っ白な皿の上に首だけ乗り、何かの肉と一緒に陳列されているではありませんか。そう、ずばり、活け造りみたいに! 活け造りみたいに!! 乱暴した後なんでしょう!? 活け造りみたいに!!
「う、うわぁぁぁぁぁあああ!! だ、ダゴン!! なにが、何があったというんだ!?」
その状態でダゴンは言います。
「何をおっしゃっているのです? 大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない、問題だ!」
「あ、私の事でしたらお気になさらず」
「気にするよ? 普通は気にするよ!? むしろ気にしなかったらそいつのが大丈夫じゃないだろ?」
「大丈夫です。鮮度は抜群です」
「違う、問題はそこじゃない。そして聞いてない」
クトゥルフは思わず封印で重い体をよじりながら悶え、祭壇から逃げ出そうとします。
「こんな場所に居られるか! 余はゾスに帰らせてもらう!」
「帰れるんです?」
「帰れないけど帰りたい! 帰る!! 帰るぅ!!」
「まあまあ、お待ちください。クトゥルフ様」
ダゴンは尚も冷静にそう答えました。
クトゥルフはその言葉を受けて、改めてダゴンを見ると、そこに謎の白い粘着質な液体がかけられていくではありませんか。
「今から私、『活け造り』から『とろろ掛け活け造り』にクラスチェンジするんです」
「どうでもいいわい!」
「何言ってるんですか、大事な事ですよ?」
そして、ダゴンは言います。
「この夢から覚めたら、そのうち、あなたの食卓に私が行くんですから、捨丸」
ふと、沈みゆく意識の中で、クトゥルフは思いました。
「(あ……次、ニャルを見かけたら、全力で殴ろう)」
◆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます