第三話 ナスを見てバナナのことを考える邪神

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「はっ! い、今のは、夢か」


 暗く深い海の底。光の差さぬ深淵の奥。人智及ばぬ、否、人智を超越した太古の都ルルイエの祭壇にて、クトゥルフは目覚めました。

 しかして感覚はぼやけ、視界はかすみ、まだ夢か現か。

 自身の指先ほどの大きさの蛸がクトゥルフの眼前に現れて揺蕩たゆたいながら彼に進言します。


「どうされましたか? クトゥルフ様」

「お、おお……気にするな。少し……悪夢を見ていた」

「悪夢……いったいどんな夢を見ていたのですか?」


 クトゥルフはまどろみながら、先ほどまで見ていた夢を思い出そうとします。


「うむ。余がまさかの人間に転生し、あまつさえニャルラトホテップの玩具にされるところであった……」

「はぁ……クトゥルフたまが、人間に転生てんちぇいでつか」


 クトゥルフは蛸の言葉が、舌っ足らずになったことに気付きます。


「どうした? なぜそのように、はきはきと喋らぬのだ?」

「それはもちろん……」


 蛸は告げます。


「蛸は、口を切り取って下処理をしないと食べにくいからでつよ、捨丸」


 ふと、海底に巨大な、クトゥルフが見上げるほど、巨大な髭の老人が現れ、クトゥルフの頭を掴みます。


「ひっ! こ、これは、これこそが夢だ! まだ夢だ!」


 超巨大な老人が、蛸の墨で汚した歯で微笑みました。





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