当日譚1

 夏休みが明けた頃、僕と丸井は校門前で仁王立ちをしていた。

 過ぎゆく生徒たちが不思議そうな顔を浮かべてみてくる。

 時折、彼らは僕たちをみながら、ひそひそと話す。


「あの子ちっちゃくて可愛くね?」

「やば、あの人超イケメン。何年生だろ?」

「2年じゃないよね? あんな人見たことないし」

「あんなのいたら、すぐ噂になってるって。転校生じゃない?」


 そいつらのことを横目に見ながら、僕と丸井は顔を突き合わせてほくそ笑む。


「これはいけるわ! いけるわよ、岩井!」

「ああ、これは間違いなくいける! やったぞ、成功だ!」


 僕たちはがどうして校門前で仁王立ちしているのかというと、とどのつまり、強制品評会のためだった。


 校門前で、道を塞ぐ様に立っていれば嫌でも目に入る。迷惑だろうけどそこは仕方ない。諦めてほしい。


 周りからの視線。それを受けて、僕たちがどう見られるか、それを確かめたかったのだ。


 結果は上々。まあ、元々、街である程度は確かめていたので、これは表向きの狙い。


 もう一つの、真の狙い。それは、美少女と美男子という評価を得て、噂を広げるため。

 考えうるストーリーはこうだ。


 ―――うわ、馬淵のやつ岩井のこと振ったのかよ。もったいねー。

 ―――流した魚はデカかったわね。私、狙ってみようかしら。

 ―――やめとけって。あいつ、丸井と仲良いらしいぞ。無理無理。

 ―――そういえば、丸井もすげー可愛くやってたよな。やっぱ付き合ってんのかな。

 ―――かもな。丸井も、夏休み前に沢枝に振られたらしいし、二人で夏休みデビューってやつ?

 ―――あー、ありそう。沢枝も馬淵も馬鹿なことしたよな。


 完璧だ……。

 我ながら、なんて恐ろしい計略を立てるのだろう。才能が怖い。


「最初聞いた時は、なんで女々しいんだろうって思ったけどね」


  丸井はにやり、と笑う。


「これは素晴らしいわ。き、気持ち良すぎて頭ふなっしーになりそうよっ!」

「まてまて! そういう、言葉使い一つとっても舐められるんだ。ここは往来の場、気を引き締めよう」

「そ、それもそうね! ようし、早速、教室にも私たちの姿を披露しに行くわよ!」


 正門での仁王立ちもほどほどに、僕たちは教室へと向かう。

 するとそこではすでに噂が広まっていたのか、次々と僕たちに群がるクラスメイトたち。


「おい、まさかとは思ったけど、やっぱりお前丸井か!?」

「そっちは岩井君!? ほんとに!?」


  僕たちが「そうだよ」「そうよ」と短く答えると、続け様に質問が飛んでくる。


 はっはっは!!!!


 計画通り……!


 馬淵、そして沢枝への復讐へのカウントダウンは、着々と進んでいる。

 あとは、このクラスに奴らがくるのを待つだけ――――長かった。ここまで本当に、長かった。


 痩せるため、僕たちは鬼畜と名高いトレーニングジムに通った。

 胃痛さえ覚える食事制限に、手足が棒になるまでの筋トレ。

 綺麗なシックスパックを作るための腹筋は、頭にキロの重りを乗せた。

 すらりとした足を手に入れるため、陸上選手並みの走り込みをした。

 ゲロ吐くまでやらされた、25メートルバタ足地獄の200本コース。


 思い出すだけでも身震いしそうな訓練メニュー。もう二度とやりたくないけど、リバウンド防止のために週に2回通うことになっている。


 全ては今日、この日のため。

 馬淵と沢枝、首を洗って待ってるがいい!


「ちょっと、どいてもらえない?」


 この後イベントに思い馳せながら、クラスメイトたちの質問に答えていると、後ろから声をかけられた。

 忘れる負けもない、馬淵の透き通る様な声だった。


「やあ、馬淵さん。おはよう」


 僕は丸いとのリハーサル通り、爽やかな笑顔をむけて振り返る。

 準備は完璧。さあ、僕の姿に驚き慄くが――――あれ?


「おはよ。つーかだれ?」


 そう言ったのは、バスケ部大型エースの沢枝克樹。馬淵に挨拶したのに、なぜこいつが出てくるのか。

 疑問は一瞬。答えはすぐ目の前にあった。


「あの、その手はなに?」


 馬淵と沢枝の手は、しっかりと握られていた。それは指を絡めた恋人繋ぎ。聞くまでもなく、どう言うことなのか察しがついてしまう。


「付き合ってるのよ。悪い? 岩井君」


 あろうことは僕だと言い当ててくる馬淵だが、僕はそれどころではない。


 計画、破綻しちゃってるじゃん……。

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デブな僕が告白したけどフラれたので、同じくデブでフラれた彼女と痩せて復讐します……あの、僕たちをフった奴らが付き合いはじめてるんだけど? 一般決闘者 @kagenora

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