央都防衛戦の幕開け
イヴェル副団長がテーブルに央都全体の地図を広げて話を始めた。
「報告によると今回央都を襲撃しているのはここにいる全員がおそらくその名を知っているであろう“ディアブロ”です」
そう言うと室内の空気が張り詰めたのがわかった。半年前サザンカ村を襲った事件に引き続き今回は央都を襲うとは、絶対に許せない集団だ。
「ディアブロですか。それで相手の戦力は?」
テレシア校長が問いかけた。
「まだ細かい数値は出ていませんが、戦闘員が数百人規模で侵攻してきている模様です」
「なあタツキ、敵の数が多くないか?」
耳元でハルタが囁いてきた。
「大丈夫だ。何かしらイヴェルさんには案が浮かんでいるはずだ」
人数が多くて勢力的に相手の方が一枚上手だが、作戦次第でそれを逆転させることは可能なはずだ。
「いい案はあるのですか? 正面から向かって行ってはそれなりに苦労するはずですよ」
フレイヤ先生が言った。
「はい、もちろんそれはわかっています。ですが肝心な良い作戦が思いつかないのです」
ここにきて副団長様もお手上げとは少し残念だ。イヴェルなら何かしら案が思い浮かんでいると思ったのに。それより肝心な時に団長が出てこないが、団長は緊急事態なのに何をしているのだろうか。ユグドラシルに来てから団長の姿を見たことは一度もない。
「誰かいい案が浮かんでいる人がいたら教えてくれるとありがたい」
「……」
室内には沈黙が続いた。周りを見るとこの場いる全員がいい案は無いかと試行錯誤を重ねている様子だった。
「どうだい、タツキ君。何かいい案はないかい?」
とうとう俺に話を振ってきた。今自分の中には全く案が思いついていないが、元いた世界の知識を絞り出してなんとか策を構築しようとした。この半年間過ごしてきたユグドラシルで訪れた場所をを隅から隅まで思い出す。
「そうだ。イヴェルさん、今騎士団が送り出せるできるメンバーは何名でしょうか?」
「今はたまたま周辺地域のモンスター討伐にメンバーを送り込んでしまっているから、今騎士団集会所から出せるのは数十名ってところだろう。そのほか何名かは先に防衛に向かわせた」
思っていたよりも人数が少なくて自分の思い付いた案が実行に移せるか不安だったが、言うことにした。
「実行できるかは分かりませんが一応案は思いつきました。地図を見てください」
ユグドラシルの地図に周りの目が移される。俺はユグドラシル全体を囲む城壁を指差した。
「これからの話は俺の推測を含みます。先程ここに来るまで見た限りでは正門の城壁以外壊されている壁はありませんでした。つまり敵は正門一点から侵入していると思われます。そして正門から伸びるメイン通りは中心に建っているギルドへと一直線に続きます。したがって敵の多くが中心部に向かっていることが推測できます」
「ああ、それは私たちの方でもなんとなくは検討が付いている。で、肝心の戦略を教えてくれ」
「俺は今敵の勢力分散が一番重要だと思います。ですからまず中心に戦闘力の高い人達を配置します。そのうちの何人かは城壁に向かって後退します。この後退する人たちはあくまでも囮です。その隙に城壁をつたって央都を囲むようにして人を配置するんです。城壁に配置されたその人たちは徐々に中心部へと近づいていきます。そうすることによって囮となっていた人達と合流して敵と交戦することができます。また、隅々まで敵がいないかを確認することができます。これである程度の勢力分散及び央都防衛は可能かと」
とりあえずなんとか練り上げた案を発表したが、成功するとは限らない。
「いい案だと思うぜ俺は」
「私も!」
「たまにはいい案も出すじゃないか、フンッ」
いつもの三人が良いと言ってくれた。
「私もタツキさんの意見に賛成ですわ」
「フレイヤ先生と同じく私もです。イヴェル殿、いかがでしょうか。私はこの案が現状における最善案だと思うのですが」
「そうですね。それでは実行に移すことにしましょう。この作戦のメンバーの割り振りですが、私が決めてもいいでしょうか」
この場にいる全員が了承の合図を送った。
「城壁にには騎士団メンバーを数名を残して全員向かわせます。それ以外のフレイヤ先生、タツキ君、ハルタ君、それと……」
「ウルドだ」
少しふてくされた顔をした。
「すまないね。改めてウルド君、カナリア、そして私と残った騎士団メンバー数名が中心部のギルドへ向かいます。テレシア校長は空からの援護及び状況の把握をよろしくお願いします」
「では準備が出来次第、早急に作戦を開始します」
こうして央都防衛戦が幕を開けた。
俺たちは央都への被害の進行を食い止める為会議が終わるとすぐに中心部にあるギルドへ向かった。空から街を見下ろすとひどい様だった。家々からは炎が上がり、一部が破壊されていた。半年前のサザンカ村襲撃の情景が頭の中に蘇った。あの時は数人の犠牲だけで済んだが、今回はそうとはいかないかもしれない。俺はふと宿にいるはずのシーナとガリウドのことを思い出して心配になったが、この際ガリウドが適切な判断を下して二人とも安全な場所へと逃げるだろうと考えた。
ギルドに着くとそこは錯乱状態に陥っていて、人が逃げ場を探して右往左往していた。
「こりゃひどいな」
「イヴェルさん、俺たちに指示を」
「恐らく敵はこれから中心部へ徐々に侵攻してくるはずです。とりあえずはそいつらを食い止めつつ囮作戦を決行します。囮はフレイヤ先生、カナリアとウルド君、タツキ君とハルタ君の3グループに任せます。そして敵勢力を3方向に分断させて事態の沈静化を行います。タツキ君とハルタ君は学校方面に。それ以外の2グループはあちらの方角とそちらの方角へ」
イヴェルさんが方向を指で刺しながら説明した。
すると正門の方角から騎士団の一人が体を傷だらけにしながらやって来た。
「副団長報告です。今までなんとか持ち堪えていた防衛線が破られ、敵勢力ディアブロが中心部へ侵攻を開始しました」
「そうか、ありがとう。君は市民の誘導にまわってくれ」
彼はギルドの方へ走っていった。
「先程イヴェルさんは誘導と言いましたが、ユグドラシルに避難場所的なものはあるんですか?」
「タツキ君は知らないのかい? ギルドの地下には巨大な避難所があるんだ。そこは魔法の力によって外部からの攻撃を遮断するんだ」
避難施設があるとは今までに一度も聞いたことがなかった。そういう施設があらかじめ作られているということは今までに今回のような戦いが起こったということか。そういえば、テレシア先生とさっき話していた時に央都の鐘が鳴ったのは数十年振りと言ってから、おそらく数十年前にも今起こっているようなことがあったのだろう。つまりはギルドがこの央都における最後の砦というわけか。
「来るぞ……」
イヴェルが鞘からレイピアを抜いた。彼に続けて俺たちも臨戦態勢をとった。
すると見覚えのある黒いローブを纏う影が数十程近づいてきた。奴らは半年前戦った奴らよりずっと俊敏に動いて向かってきた。ということは雇われた盗賊などではなく正式にディアブロに所属する者達なのかもしれない。
「さて始めましょうか。『精霊ドライアドの異能は幻出し異能は我が下に、汝の……』」
フレイヤ先生が魔法を唱える。するとフレイヤ先生の周囲からどこからともなくつる植物が生え始めて、それらが矢のような素早さで奴らの体へと巻きつく。彼らは身動きが取れずに地面にひれ伏せた。
「そのまま地獄へ落ちるがいい。『精霊フルニラの異能は幻出し異能は我が下に、汝の審判我が手に、雷帝の矢となり穿ち抜け、トニトルス』」
ウルドが放った電撃はつるに巻きつかれて身動きが取れなくなっている奴らに易々と直撃した。奴らに電気が走り、体は小刻みに震えている。
「いい追撃ですわウルドさん」
「言われるまでもない。これくらいできて当たり前だ」
話している時間は束の間で次から次へと新手がやってきた。しかし錚々そうそうたるメンバーの俺たちはそれらに十二分に対応できた。
しかしある程度時間が経つといつのまにか一人一人が囲まれたてしまうほどの敵が集まり、対応しきれなくなってきた。
「これより作戦を実行する。始めてくれ」
イヴェルさんから全員に向けて声が発せられる。
俺はそばにいたハルタと合流して敵を引き連れながら学校の方へ後退を始めた。
親友と共に最強目指してみた アキンフェンワ @Akinfenwa1121
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。親友と共に最強目指してみたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます