入学

 そして入学当日を迎えた。朝起きるとノルデンが食堂で身支度を整えて荷物をまとめていた。


「どうしたんですか?」ハルタが聞いた。


「私は今日これからここを出てサザンカ村へ戻る」


「戻ってしまうんですか。もっといてくれていたほうが心強いですよ」


「あっちの宿の方をシーナに任せっきりでは申し訳ないからな」


「そうですか……」


「でも今すぐに帰るわけじゃない。学校まではついていくから、まだもう少し時間がある」


「もう行っちまうのか姉貴、久しぶり会えったっていうのに」


 ガリウドが朝食を持って食堂入ってきた。


「お前に貸しをこれ以上作るわけにもいけないからな。それにもう村の産物はもう全部売り終えた」


 ノルデンとともに食べる最後の朝食を食べた。明日今ノルデンが座っている席に姿がないとなると少し寂しかった。


 朝食を食べ終えると俺たちも学校の準備をした。準備といっても剣と杖を持っていくだけだが。準備を終えると宿を出て学校へと向かった。入学日らしい太陽の光が煌々と俺たちを照らした。


「剣と杖はしっかり持ったか?」


「はい、ばっちりです」


「この数日で剣術の基本のきぐらいは教えたつもりだから多少は周りより一歩先にいるはずだが、まだ戦闘の動きなどは身に付いていないだろうから自惚れるなよ」


「わかってますって、こんなに入学前から稽古している人なんてどうせいないですよ」


 ハルタが自信がありげに言った。


「ハルタそういうのがうぬぼれているって言うんだぞ」


 俺はハルタに言った。たしかにノルデンがいうように俺たちは剣術のほんの一部分しか習っていない。しかも習った振り方などはまだ全然完璧ではない。


そうも話していると学校の門の前に着いた。


「そうだ、お前たちは移動手段がないだろうから宿にヨーテルを置いておく。ヨーテルはお前らになついていてこれからもお前たちの力になってくれるだろう」


「それじゃノルデンさんが帰れないじゃないですか」


「私は大丈夫だ、新たなジャイアントサーマンドラを知り合いからもらって行くから大丈夫だ」


「そうですか、最後の最後までなんかすみません」


「そんな礼をすることじゃない」


「今まで短い間でしたけどノルデンさんと過ごした日々は楽しくて毎日が待ち遠しかったです。ユグドラシルに来て一緒にご飯屋さんに行ったり剣術の稽古をしたりしたことは忘れられない思い出です。今までお世話になりました」


「タツキもいうように俺もノルデンさんには感謝しかないです。ノルデンさんと会えていなかったら生き抜く術を知らずに死んでしまいこの世界にはもう存在していなかったかもしれないです。本当に面倒を見てくれてありがとうございました。この恩はいつか返します」


「そんなありがとうを言うな、こっちがどうしていいか困るだろう」


 ノルデンも少し寂しそうだった。


 感動の別れをしていると門の近くにいた先生らしき人物が近づいてきた。


「あらこれはこれは珍しい方がいらっしゃってるではないですか」


「先生、お久しぶりです。元気にしてましたか」


 どうやらノルデンがここにいた頃の先生らしい。それよりもノルデンが敬語を使うなんて珍しいからよっぽど尊敬しているのだろう。


「ええ、あなたについての噂もたまに耳にして心配していましたよ」


「私は全然大丈夫ですよ。あっそうだ、隣にいるこいつらがこれからここに入るのでぜひ面倒を見てやってください」


「そうですか。私はここの校長を務めているテレシアです。どうぞよろしく。ノルデンは生徒として昔教えていました」


「俺はタツキで、こっちがハルタです。ノルデンさんとはサザンカ村で知り合って以来の仲です」


「かの最強の戦士ノルデンの知り合いということは期待ができますね」


「先生そんな最強の戦士なんて。先生には及びませんよ」


「ここで立ち話はなんですから、私の部屋でお茶しながらでもどうです?」


「私はこれからサザンカ村に帰らなければならないので、またの機会によろしくお願いします。私はこのへんで戻る。ハルタ、タツキこれから頑張れ。もし何かあったらガリウドを必ず頼れ、テレシア先生はとてもいい先生だから相談事が有ればお願いして助けてもらえ」


 そういうとノルデンは大きなハグを俺たちにしてくれた。


「お別れだ、またいつか会おう、その時まで楽しみにしている。では先生もお元気で」


 ノルデンはそれっきり振り向かず俺たちに背を向けて行ってしまった。


「あの子もあんなに大きくなって成長しましたね。二人ともそろそろ入学の式典が始まりますよ」


 学校の噴水前へと向かった。


 噴水の前には数十名の生徒たちが集まっていた。生徒たちの中には獣人やエルフなどさまざまな種族がいて皆持っている武器もそれぞれ異なっていた。


「皆さん静粛に」


 前で喋り始めたのはテレシア先生だった。テレシア先生に注目が集まった。


「ここにいる生徒は皆剣術及び魔術を学びその能力を伸ばしたいと思っている生徒だと思います。ぜひこの大陸一大きな学校である央都剣魔術学校で精一杯努力し、研鑽けんさんを積み重ねてそれぞれの描く夢向かって頑張ってください。それではこれから入学早々になりますがクラス分け模擬戦闘を行います。皆さんは戦闘場へ向かってください」


「まだ俺たち戦い方も知らないけど大丈夫なのか?てかそんなの事前に聞かされてないよなタツキ」


「やってみるしかない。それに事前に言っていたら意味がないだろう」


 俺たちは周りの生徒たちと戦闘場へ向かった。


 戦闘場へ入るとフィールドは四等分されていてその前には先生と思われる人たちが並んで座っていた。


「それではクラス分け模擬戦闘について説明します。これからあなたたちにはランダムに組まれた対戦相手と一対一で戦ってもらいます。戦いでは何を使って戦っても良いです。剣術を使うもよし魔術を使うのもよし、好きな風に戦ってください。戦って相手が負けを認める又はそこにいる審査員がやめの指示を出したら終了とします。その人の能力によってクラスが判別されるので、勝ち負けにこだわらず今最大限だせる力で頑張ってください。負傷しても近くの教員が治療するので安心してください。それでは」


 テレシア先生が言い終わると対戦表が書かれた幕が上から降りてきた。


「えーと、あった。俺は4番闘技場の5試合目。タツキは?」


「俺も4番闘技場だ。何試合目かっていうと……、1試合目!?」


 まさか1試合目に当たるとは思ってもいなかったから驚きが隠せなかった。


「トップバッターじゃん、観客席から見守ってるぜ。ファイト!」


「ああ、とりあえず精一杯頑張るよ」


 俺は4番闘技場へと向かった。


 4番闘技場には相手と思われる人がいた。相手は腕が何本も生えている多腕族だった。彼の腰には沢山の剣が収められており、いまかいまかと獲物を狩るような目で俺を見つめてきた。


「それでは各コート準備ができたようなので、これよりクラス分け模擬戦闘を行います。始め」


 審査員の1人が言った。


 始めの合図とともに相手の多腕族が俺を目掛けて突進してきた。俺は冷静に考えて今の力では太刀打ちができないとはっきりわかった。


 距離数メートルというところで相手は腰に刺してあった剣を抜き、俺を切る構えをとった。俺もそれに合わせて双剣を抜いた。そして一気に間合いを詰めて互いに剣を交えた。圧倒的に彼の攻撃の方が力量があった。俺はその攻撃を受け止めきれずに後ろへと飛ばされてしまった。


「痛ってー、どうすれば太刀打ちできるんだよ」


「おい雑魚、そんな力じゃこの場所に居場所なんてねえぞ。もっと俺を楽しませろよ」


 相手は完全に俺を舐めきっていた。


「くそっ、どうすれば。せめて一切りでもダメージを負わせたい。相手は完全に舐めきっているから、相手の攻撃のカウンターしかなさそうだな」


 俺は頭の中で考えた。ここ数日素振りだけは行ったからその場から動かない素振りはそこそこできるはず。


 俺は相手の攻撃を待ち攻撃のカウンターを狙うことにした。


「来ないのか?来ないならこっちから行かせてもらうぞ」


 先程同様の動きで俺を目掛けて突進して剣を振った。俺は全身の感覚を研ぎ澄ませ、相手の攻撃を読んで斬撃を相手の体に刻み込んだが弾かれて逆に反撃をくらった。体には沢山の斬り刻まれた跡ができ、そこから血が滲み出てきた。


「4番闘技場そこまで」


 審査員が言うと1人の教師が近づいてきて治療を行ってくれた。俺はとても悔しかった。相手を見ると無傷だった。


 俺は観客席へ行きハルタのいる場所に座った。


「お疲れタツキ、相手は経験者ぽかったしあんな結果になっても仕方がないと思う」


「完全に舐め切られてた。悔しい」


「そうだな、次の俺の試合そろそろだから行くね」


「ハルタも頑張れよ」


「言われなくても、わかってるよ」


 ハルタの試合は主に魔術を使ってくる相手との試合だった。全く戦い方を知らないハルタも俺と同様にあっさりと惨敗した。


「くっそーー、魔術が使えればな」


 ハルタも悔しそうだった。


「これからここで死ぬ気で努力してあいつらを追い越して笑い返してやろう」


「うん、頑張ろう」


 すると審査員席からテレシア先生がクラスを発表し始めた。


「全模擬戦闘が終了したのでクラスを発表します。このクラスは約一年後の卒業まで継続されます。評価が高かった人から順に1班2班3班4班と分けて行きます。それではこれから発表する班を確認したら自教室へと向かってください」


 先程と同じように幕が降りてきた。


「あった、2人とも4班か。まあそうなるわな」


 ハルタは相変わらず悔しそうな顔をした。


「別にこのクラスは最初の実力の結果だからこれからいくら4班とはいえ努力次第で上位3班の実力を抜かすことができるだろう」


「そうだな、頑張ろう。教室に向かおうぜ」


 こんなにも悔しいと思ったのはいつぶりだろうかと俺は思い返し、空中に垂れ下がった幕を眺めつつ闘技場を後にして俺たちは指定された教室に向かった。

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