第四班
俺たちは校舎にある四班の教室へ到着した。教室は大学の教室のように中央に教壇があってそれを囲むようにして席が段々と並んでいた。どうやら席は自由に座っていいようだった。
「どこに座ろうか」
「見えやすいところがいいんじゃないか、あの中央の一番上の席とか」
俺が提案した。見渡すと席はまだ空席だらけだった。
「賛成、そこにしよう」
ハルタが頷いた。
座ろうとした席の隣には見たことある人物が座っていた。そこにいたのは入学前に学校見学で喧嘩を売ってきた上流階級のやつだった。
「お、お前たちはあの時の」
「あれ、なんでお前が最下位のクラスにいるんだ?」
俺が聞いた。
「お前こそ。俺は審査員の勘違いによってここまで落とされたんだ。決して闘技場の戦いで負けたわけじゃないから勘違いするなよ」
「本当かよそれ、まあこのクラスにいる限り俺たちと同類ってことは変えられないからな。これから一年間よろしくな。俺はタツキ、こっちに座っているのがハルタだ」
「よろしくな。それでお前の名前は」
ハルタが聞いた。
「いいだろう紹介してやる。我はユグドラシル上流階層貴族出身のウルドだ。よく名を心に刻んでおけ。これから一年間の間に俺の本当の実力を知ることになるだろう」
ウルドが椅子から立ち上がり見下して言ってきた。
「はいはい、わかりましたよ」
ハルタがめんどくさそうに答えた。
話していると教室へ先生が入ってきた。先生は薄ピンク色のスカートを履いていた。一目見ただけで胸やその他の部分が富んでいることがわかった。先生はエルフだった。
「はーい皆、席に着いて」
周りを見渡すと全員で二十数名が座っていた。
「今日から4班の教師を勤めますフレイヤです。みんなよろしく。これから点呼を行うから呼ばれたら返事をしてね」
次々に名前が呼ばれて俺たちの名前も呼ばれたが名前が呼ばれたのにも関わらず返事がなかった名前もあった。
「ウルド、なんでいない人がいるんだ?」
「あくまで俺の考えだが、この底辺クラスに入るくらいならこの学校自体に入らない方がマシだと考えてそのまま入学しない奴らだろう。まったく底辺どもはこれだからダメなんだ」
「お前も今のクラス分けだと底辺だろうが」
俺は思った。
「おかしいわね、全員揃っていないけど明日には揃っているでしょう。それではこれから年間のスケジュールを伝えるわ。
皆はこれからここ央都剣・魔術学校で剣術、魔術そしてこの世界における基本知識を学んでもらいます。この学校での一年は大きく前期後期に分かれます。前期では基本知識と基本剣魔術を学び、後期では自分の選択する剣魔術の一方を選択してもらいます。そして卒業日には卒業試験を受けてもらいそこで試験に合格すればこの学校の修了証をもらうことができます。ざっくり言うとこんな感じだけどここまでで質問は何かありますか?」
ウルドが手を挙げて質問した。
「俺は本来この底辺クラスにいるはずのないものだが、上位のクラスに上がることはできないのか?」
これはまたやったなと俺は心の中で思った。
「いい質問だけど残念ながらクラスを変更することはできないわ。でも安心して私がみんなを上位クラスと違いがないくらいまで育ててあげるから」
フレイヤ先生は面倒見がとても良さそうだ。
「他にないなら授業を始めるわよ」
そして学校での授業が始まった。授業は現実の高校で受けていた授業よりも新鮮で魅力的なものが多くて楽しかった。一日を通して今日は基本知識に含まれるミドロジャ語についての授業で受けた。どうやらミドロジャ語は日本語のひらがな46文字を独特の文字に変換したものらしかった。独特すぎて覚えるまでには時間がかかりそうだったが。
「終わったな初日、ウルドはこれからどうするんだ?」
「俺は鍛錬をするためにギルドへ行って任務を受注して一狩りしてこようと思う。お前ら底辺にはできないことだろうがな。それじゃ」
相変わらずの上から目線で行ってしまった。
「どうするタツキ?」
「俺たちもギルドに行くのいいかもな」
「そうだな、行ってみるか」
立ち上がると近くにいた少女が声をかけてきた。
「あ、あの君たちギルドへ行くんですか。もしよければついていってもいいですか?1人だと心細くて……」
彼女は華奢な体つきをしていて美人だった。
「いいけど、君は?」
「私はカナリア、君たちと同じ四班これからよろしく。私はまだギルドでの登録も終わってないけど大丈夫かな」
「俺たちもまだ任務を受注したこともない。ただただ登録してあるだけだよ。俺はタツキだ、でこっちがハルタだ。同じ四班としてよろしく頼むよ」
「ハルタだよろしくな」
俺たちはカナリアと握手をした。
「じゃあギルドへ向かおうぜ」
俺たちはギルドへ向かった。
ギルドへの道中カナリアと少し話した。ハルタは沿道の店を見て回っていて俺たちと話す暇もなさそうに動いていた。
「カナリアはどうして学校に?」
「私は小さい頃から親のしつけが厳しくて外に出て自由に行動したりすることが難しかったの。それでこの学校で強くなって自分一人で自由を掴めるようになれるようになりたかったから入ったの。タツキくんは?」
「俺はこの世界で生き延びるためかな。でもカナリアが考えているような明確な理由はないよ」
「タツキくんの理由もいい理由だと思うよ。私は生き延びようなんて……」
カナリアは曇った表情を浮かべた。
「どうしたカナリア?」
「なんでもない。あれがギルド?」
ギルドが見えて来た。
「そうだよ、でもなんであの形にしたのか不思議だよな」
俺たちはギルドの塔眺めてギルドへ向かった。
ギルドに着くと担当のヘルヘイムさんと会った。
「お久しぶりですヘルヘイムさん」
「これはタツキさんとハルタさんと…」
「彼女はカナリアです。学校で同じクラスなんです」
「そうでしたか。今日はどのような用件でいらっしゃたんでしょうか?」
「今日は任務の受注と彼女のギルド登録をしに来ました」
「では最初にカナリアさんの登録を行いましょう」
俺たちが以前行ったようにカナリアも同様の操作を行なって登録を終えた。
「これでギルド登録完了です。私はギルド案内人のヘルヘイムです。何か問題があればいつでも言ってください」
「ありがとうございます」
「それではタツキさんとハルタさんの任務の件ですが……」
「それ私も参加させてください。タツキくんハルタくん是非一緒に任務を進めさせて」
「いいぜ、初めてだし人数多い方が楽しそうだしな」
ハルタが言った。
「それでは改めてまして任務の件ですが、初めてですので難易度が低い植物型モンスターの討伐などはどうでしょうか」
「ヘルヘイムさんがそれがいいと言うならその任務にします」
「わかりました任務の内容はこの紙に書かれていますので、よく確認して向かってください。討伐が終わったらモンスターより落ちる素材を持ってきていただければ報酬の受け取りが可能です」
紙を受け取った。
「えーと、植物型モンスター討伐任務、期限は受注してから一週間の間に行うこと、場所はユグドラシル北東の村、リーリア村周辺か」
ハルタが内容を読んだ。
「一週間も期限があるなら学校が休みの日にでも行こう」
俺が提案した。
「そうだね。それでいい、カナリア?」
「うん、そこは君たちに任せるよ」
「そうだ、ヘルヘイムさんはウルドってやつ知ってますか。ここに来ているはずなんですが」
「彼なら、難易度の高いクエストを受注して一人で向かってしまいましたよ。この前も受注してモンスターに殺されかけて上級冒険者に助けられたばっかりなのに。今回は心配なので知り合いの上級冒険者に後をつけるようにお願いしたので、多分今回も前回と同じように負けて上級冒険者の方にかつがれながら戻ってくるでしょうけど」
ヘルヘイムは大きなため息をついた。どうやらヘルヘイムにとっても相当な悩みの種らしい。
「本当にどうしようもない奴だなあいつは。困ったな」
ハルタが言った。
「あいつに実力をわからせてやるために俺たちの任務に誘ってみます。そうすれば彼も自分の立ち位置がわかるでしょうから」
「それが良さそうですね、お願いします。でも彼はユグドラシルでも有数の上流階級の貴族なので彼に害を与えないように気をつけてください。過去にそのようなことがあり、重い罰を受けたものがいるので」
「わかりました。では近いうちにまた来ます」
俺たちはギルドを後にした。
「もうすっかり夕方だな。これからどうする?」
皆に聞いた。
「私はそろそろ帰らないといけないから。今日は2人とも私を手伝ってくれてありがとう明日からもよろしくね。じゃあ明日また学校で」
「おう、明日もよろしくな」
ハルタがにっこり笑った。カナリアは手を振って通りの雑踏の中に消えていった。
「俺たちも宿へ帰るか」
ハルタに聞いた。
「うん」
俺たちは宿へ向かった。
宿へ入ると何か料理のいい匂いが漂ってきた。
「お、帰ったか。食事の準備がもうすぐ終わるから座って待っててくれ」
ガリウドが食堂から声をかけてきた。食堂の席に座った。テーブルには沢山の種類の料理が並べられていてどれも美味しそうだった。こんな料理を見るとシーナの姿が懐かしく感じる。
「よし出揃ったぞ、いただこう」
「いただきます」
「初日はどうだった2人とも、楽しかったか」
「最初の授業で今日は基礎知識しか学ばなかったのでそこまで面白くなかったですけど一日を通して
学んだことは多かったです」
「そうか、そりゃあよかった。そういえばクラスはどこに入ったんだ?」
「クラス分けで相手に力がまったく通用しなくて四班になりました」
「剣術の稽古も始めたばっかりだったししょうがないだろう。これからの伸びに期待大だな」
「はい、この後屋上で稽古をしたいと思うんですけど屋上使ってもいいですか?」
「ああもちろんいいぜ。そんないちいち聞かなくったって大丈夫だ。自由に使ってもらって構わない」
夕飯を食べ終わると俺たちは屋上へ向かった。屋上ではノルデンに教えられた素振り練習を行った。
剣を振りながらハルタと話した。
「数日間振り続けているからだいぶ剣にも慣れてきたと思わないかタツキ」
「俺もそう思う。でも実戦では素振りだけじゃもちろん通用しないことがわかった。これからどんな練習をしていけばいいんだろうな」
「フレイヤ先生から教わるしかないのかもな」
「どうするかはこれから考える必要があるな。それはそうとして今日は色々あって楽しかったな」
今日一日を振り返りながら剣を振るのをやめて空を見上げるとそこには無数の星が広がっていた。それらは俺たちに秘められた無限の可能性を写しているようだった。
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