央都の街並み

 宿屋は竜車に乗ってからすぐに到着した。宿屋はサザンカ村で泊まった宿と同じような外景をしていた。俺たちはノルデンと共に荷台に積んであったものをおろし,おろし終わると俺はここまでほぼ止まらずに俺たちのことを運んでくれたヨーテルを両腕で撫で回した。彼もそれに対して嬉しそうに鳴いてくれた。ヨーテルと荷台は宿の隣ある専用の場所へと移された。一通りのことが終わると、宿の中へ入った。


 正面にカウンターがあったがそこには誰もいなかった。するとノルデンがカウンターに置いてあった呼び鈴を鳴らした。するとカウンターの奥にある部屋からノルデンによく似た獣人の男性が出てきた。


「いらっしゃいませ、って姉貴じゃねえか」


「姉貴⁉︎」


 驚いた様子でハルタが言った。


「ああ、こいつは私の弟のガリウドだ。央都滞在期間はお前らも世話になるだろうから、せいぜい顔ぐらいは覚えてやってくれ」


「ノルデンさんに弟さんがいたとは驚きです。俺はタツキそれでこっちがハルタです。よろしくお願いします」


「ああ、さっき姉貴が言ってくれたが、俺はガリウド、この宿屋を経営している。分からないことや相談したいことがあったらいつでも言ってくれ」


 ガリウドは俺たちに手を差し伸べて握手をしてくれた。ノルデンとは違って、愛想がとても良かった。


「姉貴、今回はどれぐらいここにいるんだ?」


「私は数日したら帰るがこいつらはここの学校に通うからおおよそ一年ってとこだろう」


 俺はてっきり学校の寮などに泊まるものと思っていたが、これから学校に通う間はここに住ませてもらうらしい。


「マジかよ、流石に長くねえか姉貴?」


「呼び鈴を鳴らすまで出てこないくらいだからどうせ儲かっていないんだろ。それに二人分の部屋がなくなったぐらいで、影響はないだろう。あと村長から手紙を預かっている」


 たしかに宿の床には少し埃がついていて最近人が出入りしたような形跡がなかった。


「儲かってないとは失礼な。それより村長からの手紙ってなんだ?」


 ノルデンから受け取った手紙をガリウドは読んだ。


「そうか兄ちゃんたちサリアを助けてくれたのか。そりゃ断れないな。村長からも頼まれちまったからな。好きなだけ泊まってけ」


 ガリウドはにっこりと笑顔を浮かべた。


 俺たちは宿屋で過ごす際の諸注意や部屋がどこにあるかなど聞いたあと、2階にある客室へと向かった。サザンカ村の時と同じようにハルタと相部屋にしてもらった。部屋に入って荷物の整理をしていると、ハルタが村長からもらった袋の中に入っているものは何だと聞いてきた。俺は既に道中で確認していたので、中身を教えた。荷物の整理が終わるとノルデンが部屋に来て、昼食を食べに行くと言ってきた。お金も共に持ってこいと言われた。


 央都での移動を毎回竜車で行うと面倒だからという理由で徒歩でノルデンとハルタと共に飯屋へと向かった。ガリウスは久しぶりの客が来たということで張り切っていて掃除で忙しいらしい。ノルデンが何か食べたいものはあるかと聞いてきたが、俺はこの世界の食べ物のことを全く知らないのでノルデンのおすすめがいいと答えた。ノルデンにメイン通りにある店のうちの一つへと案内された。


「ここが私おすすめの店だ。私がユグドラシルの学校に通っている時によく訪れていた店だ。ここの店で出てくるものはどれも逸品だ」


 お店はどうやら居酒屋らしい。中へ入るとテーブル席に座った。


「ご注文は」


 ウエイターが聞いてきた。


「一番人気のコースを頼む」


「わかりました。少々お待ちください」


「少し料理が来るまで時間ができたから、少しお前らが入る学校のことについて教えようと思う。学校は央都剣・魔術学校、名前の通り剣術と魔術を学ぶことができる。それだけでなくこの世界の主要言語である、ミドロジャ語も学べる。それらを一通り行うのに約一年かかる。だからお前らはこれから1年ここに滞在だな。あと入学に際して必要なものがあるから飯を食べ終わったあと買いに行くぞ」


「一年か、気が遠くなるなあ〜」


 ハルタは憂鬱そうだった。


「その入学に必要なものってなんなんですか?」


「タツキ、それはお・楽・し・み・だ」


 するとウエイターが料理が運んできた。


「お待たせしました、蜂の子のピーマンあえと、光虫のフライです。熱いのでお気をつけください」


 俺はその瞬間耳を疑った。


「蜂の子、光虫……って虫じゃないですか」


 生々しい形が残った料理であったから吐き気がした。


「ああ、そうだ。これがとってもうまいんだ。ユグドラシア大陸で一番うまいと言っても過言でもないな」


 ノルデンが自信満々に言った。


「よし食べるぞ。飯代は奢ってやる、遠慮せずに食べろ」


 ノルデンが次から次へと虫が入った料理を頬張った。食べるたびにうまいうまいと頷いていた。ハルタも食べるのを戸惑っているようだった。


 俺はため息をついて、光虫のフライを口に運んだ。


「う、うまい。見かけによらず美味いですねノルデンさん」


 食べてみると味はとてもおいしかった。だが姿を想像するとやはり吐き気がした。俺が食べるのを見て決心したのかハルタも食べ始めた。


「うん、確かにうまいね。こんな虫からこんな美味しさを感じるなんてありえないよ」


 感心した様子でハルタも次から次へ料理に手をつけた。


「いかけによらじゅってなんだよ、いた目も美味そうだろ」


 ノルデンが口に食べ物を頬張りながら言った。


 コース料理のため食べ進めていると次から次へと同じような虫料理が運ばれてきた。味は良かったから俺は姿形のことはなるべく忘れて、食べ進めた。


 俺たちは料理を食べ終わるとノルデンと共にメイン通りから一本外れた通りへと向かった。そこの通りは道に沿うように武器を売っている屋台がたくさん並び、冒険者と思われる人達で賑わっていた。


「いらっしゃーい、いいものが揃ってるよ」


「なんとこの剣がこの値段」


「モンスターから落ちた貴重な素材揃っているよー」


 それぞれの店の店主たちが客を呼び込むために発している声が飛び交っていた。


「ノルデンさんがさっき言ってた買わなければいけなものってもしかして武器ですか」


「そうだ、ここにお前らがこれから使う武器を買いに来た。しっかし、店が多いから困るなぁ。どの店に入ったらいいのやら」


「ノルデンさんの剣はここで買ったものではないんですか?」


「この剣は父親の形見としてもらったもので、ここを利用したことは一度もない。よし、人っ気のないあの店に行くぞ」


 向かった先にあった店は屋台の周りに人が全く居らず、通りの1番端にある典型的な人気のなさそうな店だった。


「いらっしゃい、何が欲しいんだい?」


「この子達2人の杖と剣が欲しくてね。おすすめはあるかいオーナー」


「ふむふむ。この剣はどうだ?値段は金トナス一枚ってところでっせ。ぜひどうでしょう」


 ノルデンは剣を振って剣を確かめて始めた。


「お前私たちを騙しているな。振りが軽いし、中心がずれている。これが金トナス一枚だと舐めやがって」


 一昔前最強と呼ばれていた人間の目は誤魔化せないだろう。ノルデンが言っているのだから間違いない筈だ。


「そんなはずは、一流の職人が作り上げたものですぜ」


 オーナーは不自然なにやけ顔をし目をそらした。するとノルデンが剣先をオーナーに向けた。


「これ以上舐め腐った真似すると、首を落とすぞ」


 ノルデンはかなりキレているらしい。


「ひえっ。すみません、騙してしまって。あんたはすごい腕をしているね。一体何者だい?」


「そんなことはどうでもいい、騙したお詫びとして金トナス一枚で杖と剣をそれぞれ一本ずつ持っていってもいいよな」


「あ、はい。ご自由好きなものをお取りになって下せえ」


「お前ら、そこの引き出しの中に沢山の杖が入っている。自分で持ってみてしっくりくるのを選べ。剣の方は私が選んでおく」


「わかりました」


 俺たちは何百あるという中から杖を選び始めた。杖は一本一本素材や形、デザインが異なっていて選ぶのがとても大変だった。


「ハルタ選んだか?」


「いや、まだだよ。選ぼうにもどれがいいのかわからない。」


 するとオーナーが近寄ってきた。


「杖には杖自身の意思がある。もし持ってみて違和感や、杖が手から落ちるようなことがあればそれは相性が悪いということなんだ。それを参考にして選ぶといいぞ」


 俺たちは言われたとおおり、たくさんの杖を持って試したが、どれもオーナーの言うようなものばっかりだった。しかし、ある杖を持った時それらが起こらずしっくりと、手に染みつく感じがした。俺はその杖に決めた。ハルタも決沢山の杖をためしてようやく決めた。


「ノルデンさん、選び終わりました。ノルデンさんの方は剣を選び終わりましたか?」


「ああ、終わっている」


 そこには剣と納めるためのベルトが2本あった。


「この剣がハルタのものだ。私が振って試したから間違いはない筈だ」


 ハルタの剣は全体がエメラルドグリーンを基調とした色をしている剣だった。ハルタは嬉しそうに受け取った。


「そしてこれがタツキのだ。お前には双剣を選んだ。私から見てお前に向いていそうだったから選んだ」


 双剣は剣とは異なって、2本の剣からなり、歯の部分は綺麗なカーブを描いていた。色はハルタとは異なって紫色を基調としていた。受け取ると思っていたよりも重さがあった。


「では代金の方をお願いします、それら合わせて金トナス2枚になりやす」


「お前たち金は持ってきているな?」


「はい、これでいいでしょうか」


 俺とハルタはそれぞれ金トナスを一枚ずつ出してオーナーに渡した。


「毎度あり。最初は騙してすまなかった、またよろしくお願いしやす」


 俺たちは剣のついたベルトを腰に巻き、武器屋通りを後にした。


「ノルデンさん、杖ってどこにしまえばいいんですか?」


「ベルトの剣が刺さっている隣に刺す部分があるだろ、そこに刺しておけ」


「ノルデンさんこれからどこへ?」


 杖を納めながらハルタが聞いた。


「決まってるだろう、学校を見学しに行くんだよ」


 俺は央都剣・魔術学校がどういう場所なのかを想像しながらノルデンとハルタの後を追った。

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