央都ユグドラシル
翌日俺は竜車が止まる振動とともに起きた。まだ太陽が登りきっていなかったので肌寒かった。後ろを見てみるとそこには今まで通ってきたであろう一本道が長々と続いているのが見えた。辺りはサザンカ村のような風景とは違い、一面草で生い茂っていて、草原となっていた。俺は竜車から降りて荷台の前へ行くとそこには疲れているせいか、大きなあくびをしているノルデンがいた。
「起きたか、ここで少し休息を取る。ここからユグドラシルはあと2、3時間ってところだ」
「もうそんなに近くまで来ているんですね」
腹が減っていて俺の腹が鳴った。
「腹が減ったのか、よし、飯を食べるぞ。小僧荷台から薪と食料が入った袋を取ってこい」
「わかりました」
俺は荷台の後ろへと向かった。
荷物を取るついでにハルタを起こした。ハルタはいつものように起きるのを嫌がったが無理やり起こした。俺はハルタにノルデンから頼まれたことを話し、手伝わせた。
戻るとノルデンはヨーテルを竜車に繋いでいるリードを外し、辺りに生えている草を食べさせていた。
「持ってきましたノルデンさん、これでいいんですよね?」
「ああ、ご苦労。これから火をつけて何かしら作る。ちょっとまっていろ」
俺たちは焚き火を囲むように座った。
ノルデンは俺の持ってきた薪に火をつけて焚き火を始めた。火がある程度落ち着くと次に料理を始めた。宿では毎回シーナが料理をしていたのでてっきりノルデンは料理ができないと思っていた。
「ノルデンさん、聞いてもいいですか?」
「なんだ」
「村でノルデンさんは昔冒険者だったと言っていましたが詳しく話を聞くことはできますか」
「そうだが、なぜ知りたいんだ小僧?」
「これから生きていく上で先人の知恵は聞いておいた方がいいと思いました」
「ふっ、そうか、なら私がどういう冒険者だったか軽く話してやろう」
ノルデンは料理をしながら話し始めた。
「私は小さい頃から父母から厳しく剣術の稽古をつけさせられていた。そのこともあって、物心ついた時には前例にない若さで央都にある剣魔術学校へ推薦入学した。剣術学校での模擬戦闘では他の剣士たちを必ず負かした。剣魔術学校を卒業すると、自分の稼ぎを得るために冒険者になろうと決意した。沢山の強大なモンスターたちを倒していくと央都にその評判が広がり、私は龍の牙というクランから入団の招待を受けた」
「ノルデンさん話を止めてしまって悪いですが、クランというものはなんですか」
ハルタが聞いた。
「クランっていうのは冒険者の集まりだ。一緒にモンスターを攻略することによって、効率の上昇を図っているんだ、話を戻すぞ。
その龍の牙というクランからの招待を私は了承した。龍の牙のことは冒険者になる前からたまに耳にしていた。奴らはユグドラシル大陸にある数あるクランの中でトップの戦力を誇り、年間のモンスター討伐数も毎年一位を誇っているような集団だった。メンバーは私を含めて八人からなり、全員が私よりも戦闘において強かった。私も戦闘を繰り返すうちに彼らとの絆を深め一種の家族の存在と思っていた。
ところがある日、ギルドから特殊任務を受注したんだ。特殊任務をギルドから受けたのはこの時が初めてだった。私たちはいつものようなモンスターの討伐と思って目的地に向かった。しかしそこへ行ってみると、見たことも戦ったこともないモンスターがいた。私たち龍の牙はいつも通り戦闘へと移ったが、一人また一人と仲間が倒されていった。最終的に私ともう一人魔術師だけが残ってしまった。そしてニ人であのモンスターを倒しにかかろうとした時、魔術師は私を魔法で央都へと飛ばして、それ以降姿を見ることはなかった。
一人でユグドラシルへ戻った私は周りの人間からなぜ他の冒険者たちを見捨ててのこのこと帰ってきたなどと言って罵倒された。そういうことがあって私は今、冒険者をやめてサザンカ村の宿屋のオーナーをやっている」
ノルデンはいつもと違って悲しそうだった。
「そんなことがあったとは。そのモンスターというのはどんなモンスターだったんですか?」
「その話はまた今度だ、ほら料理ができたぞ。熱いから気をつけろ」
「ありがとうございます」
ハルタが料理を嬉しそうに受け取った。俺もそれに続いて受け取った。器に入っていたのはスープだった。まだ夜明けで薄暗かったから冷えた体に染み渡った。
俺たちが食べ終えて支度を整えて竜車に乗ると再び竜車が動き出した。周りはずっと草原が続いていた。時々俺たちが通ってきた道へと進む竜車とすれ違った。彼らは皆商人や村人のような格好をしていた。すれ違う際にはノルデンに挨拶を交わしていった。
そうして竜車に揺られること約二時間、
ノルデンが突然前から声をかけてきた。
「おいお前らあれを見ろ」
そこには草原の中に巨大な城壁が何かを囲むようにあった。
「あれは……?」
俺たちは荷台の横から頭を突き出した。。
「あれがお前らの目的地、央都ユグドラシルだ」
俺はこれから冒険が始まるのだと目を輝かせた。
近づいて見てみると遠くから見てみるよりずっと大きかった。央都への門には列ができており、検問があるらしい。何分かすると俺たちの番が回ってきた。俺たちは荷台の先頭に座った。
「ようこそユグドラシルへ!ユグドラシルへの滞在はどういったご用件でしょうか」
門衛が聞いた。
「私は、村の特産品を売りに来た。それでこいつら2人はギルド登録と央都剣・魔術学院への入学のためここにきた」
「了解しました、荷台の中を確認してもよろしいですか」
「ああ」
ノルデンが答えると門衛2人は荷台を一通り調べた。
「検問は完了しました。どうぞ良いご滞在を」
門衛たちは笑顔で俺たちを向かい入れた。
城壁をくぐると、そこにはまだ見たことのない世界が広がっていた。
央都には今までに見たことのない種族がたくさん歩いていて、街の雰囲気は村とは全く異となっていた。沿道にはいろいろな種類や分野の物を売る店が連なっていた。
「私たちが入ってきたのが、央都で唯一の門だ。そこから伸びていて今私たちが通っているのがメイン通りだ。このメイン通りは前に見える大きな建物、ギルドへと繋がっている」
言われた通り前を見ると遠方に石造りの塔があった。
「ノルデンさん、これからどこへ行くんですか?」
「ひとまず、一番重要なギルド登録をしに行く」
「ギルド登録って簡単なんですか?」
「簡単だ。登録者の血と署名があれば登録が可能だ。ギルド登録をすれば、身分証としても使えるギルド会員証がもらえる。そうすればできることが増やせる」
そうこう説明されてるうちにをうちにギルドに着いた。竜車をギルドの前に止めてノルデンは竜車から降りた。
「ついてこい」
ノルデンはそう言うと中に入っていった。俺たちも竜車を降りてノルデンの後に続いた。
ギルドにはいくつかのカウンターがあり、そこに一人ずつ案内人がいた。
「御用はなんでしょうか、ってノルデンさんじゃないですか。お久しぶりです。お元気でしたか」
「ああ、私は元気だ。ヘルヘイムこそ元気だったか」
どうやらヘルヘイムというギルドの案内人とノルデンは知り合いらしい。
「今日はな、この小僧たちがギルド登録したいというからついてきてやったんだ」
「そうでしたか、お二人の名前を聞いてもよろしいですか」
「はい、俺はタツキです。そしてこっちがハルタです」
名前を聞かれたあと、道中にノルデンから聞いたことを済ませて無事ギルド登録が完了した。登録が終わると会員証をもらった。会員証とはいっても紙やカードではなく指輪だった。
「登録が完了しました。これから私、ヘルヘイムがタツキさんとハルタさんの案内人を担当することになります。よろしくお願いします。何か不明なことがあればいつでも、私に聞いてください。ギルドのことについてはこのギルド説明書に書いてあるので、いつでもいいので目を通していただけるとありがたいです。」
俺はヘルヘイムから紙を一枚受け取った。
「ありがとうございます。何もわからないのでこれからたくさん迷惑をかけると思いますがヘルヘイムさん、どうぞよろしくお願いします」
「んじゃ、行くぞ」
ノルデンが言った。
「ノルデンさん、今どうしているか教えてください」
ヘルヘイムが慌てて呼び止めたが、ノルデンは止まらずにギルド出た。ヘルヘイムさんに軽く会釈するとギルドを出た。ギルドを出ると竜車の操縦席に座ったノルデンが俺たちを待っていた
「ヘルヘイムさんと話さなくていいんですか。とても話したそうでしたけれど」
ハルタが聞いた。
「いいんだ、色々とめんどくさいしな。それより乗れ、今日の宿屋へ向かうぞ」
俺たちは竜車に乗り込み宿屋へと向かった。俺はこれから始まるユグドラシルでの生活が楽しみで仕方がなかった。
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