サザンカ村

 次の日、目を開けると俺の部屋には煌々と光が窓から差し込んでいた。ハルタはまだ寝ていた。


「ハルタ朝だぞ」


「まだ眠いzzz、あと5分だけ」


 俺は確実にハルタを起こすべく、布団を取り上げた。


「ん?もう朝か」


 ハルタは大きなあくびをした。


 俺たちは寝巻きから普段着に着替えて、下の階へと向かった。


 キッチンにはもうすでにシーナの姿があった。


「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?朝食はすでにテーブルに用意してあります、召し上がってください」


「ありがとうございます、そういえばノルデンさんは?」


 見渡しても昨日食事をした場所にはノルデンの姿はなかった。


「ノルデンさんなら、村の村長さんのところに行っていますよ」


「そうですか、わかりました」


「ところでおふたがたの今日の予定はありますか?」


「あ、そうだ今日シーナさんの手伝いをします。助けてもらった代わりと言ってはなんですが」


「いいんですか、ちょうど今日は一週間に一度の薪拾いがありまして。手伝って欲しいと思っていたところです。とはいえこの村のことは何も知らないと思うので朝食を食べ終わったら、まず村の案内をしますね」


 シーナは嬉しそうに応えた。


「はい、よろしくお願いします」


 その日の朝食はきのみのようなものが入ったスープとパンだった。シーナは俺たちと年齢はそんなに変わらないがこんな美味しいものを作れてすごいと俺は感心した。


 身だしなみを整えて、食堂でシーナ待っているとメイド服姿の彼女が入ってきた。彼女は俺たち2人を連れて村全体を案内してくれた。


 村には十数軒の家があり、それらは現代風の家々とは違って、木材と石などといった自然のものからできていた。案内を受けている中で、数人の獣人じゅうじんが声をかけてきた。彼らは皆優しくて穏やかだった。シーナは彼ら全員から慕われているらしく、いろんな物を彼らから無償で貰い受けていた。ずっと屋内にいて気づかなかったが、この村の中心にはとても大きな木があり、村人たちはその木を崇拝しているようだ。


「この木でっけー、シーナさんこの木はなんですか?」


 ハルタが興味深々な様子で聞いた。


「この木はこのサザンカ村ができる前、約1000年ほど前から生えていると言われている木です。私の村の皆はこの木をご神木として崇拝しています。この木はどうやら地表深い所まで繋がっているらしく、触ると大地のパワーを感じます。ぜひタツキさんとハルタさんも触ってみてください」


 俺たちは言われた通り木に手をかざした。すると言葉では表せないようなものが体に入ってくることが明確にわかった。触ったあと俺の体はとても軽く感じられた。


「すごい……。感じる、感じるぞ」


 ハルタも同様に驚いていた。


 その後も村のさまざまな所を案内してもらった。サザンカ村には現代人がしないような人々の優遇があり、とてもいい村だと思った。


 そしてお昼を宿で食べたあと、俺たちは宿で薪拾いに必要な籠を持って村のはずれにある森へとシーナと共に向かった。


 森は村とは相異なり静けさが広がっていた。森の中にはさまざまな種類の植物が生えており、目的地に着くまでシーナにそれらの名前を教えてもらったりそれらを食べることができるかどうかを聞いたりした。


 目的地に着くと小さな小屋がありそこには木を切るための道具などが置いてあった。


「目的地到着です。必要に応じてここの道具を使ってください。できれば色々な太さや大きさの薪を拾ってくださると助かります。私は宿屋で夕飯の準備などがありますので帰りますね。来た道を戻れば村へ帰ることができます。ではよろしくお願いします」


 シーナは足早に来た道を戻っていった。


 俺たち二人は手分けして俺が太くて大きい薪、ハルタが細くて小さい薪を分担して集めることにした。1時間ほど集めるともう籠の半分くらいには薪が集まったので宿に帰りながら残りの半分の量を集めることにした。


「誰か助けて!」


 突然茂みの奥から少女の声が聞こえた。恐る恐る二人で隠れながら近づくと、そこには獣人の少女とその周りに緑色の生物が数匹群がっていた。


「タツキ、獣人はわかるがあのどす黒くて口から牙が生えた生物はなんだ?」


「おそくらくゴブリンじゃないか? そんなことはともかく、とりあえず少女を助けよう。どうすればいいと思う?」


「俺の現代から培った知識からすると、この状況で1番最適解はおそらく一人が囮になっている間をねらって奴等の死角をついて倒すことだろう。だが、彼らを見るに背中には弓や剣を持っているから、倒せるとは限らない。」


「そうだな、でも少女が襲われているという事実は見逃せない。俺が囮になって奴らの注意を引く、その間ハルタは奴らを倒してくれ」


「わかった、まかせろよ親友!」


 二人は小屋から持ってきた斧を握り締めた。ハルタはゴブリンたちの背後へ回った。


 すると彼らが喋っているのが聞こえた。


「おい早く歩け、親分が今か今かと待ちわびている。死にたくなければ歩け。ヘッヘッヘ」


「こんな森の奥には助けなんて来やしねぇよお嬢ちゃん。ヘッヘッヘ」


「この獣人は高く売れるにちげえねえ。ヘッヘッヘ」」俺は少女をいたぶっている姿を見て怒りを覚えた。


 俺は怒りに耐えれず薪を彼らに向かって投げた。


「お前ら、少女をいたぶるのはやめろ。やめないなら俺が相手をしてやる」


「なんだてめえ、どこから出てきやがった。調子に乗りやがって。お前らあいつを殺っちまうぞ」


 ゴブリンが数匹向かってきたと同時に背後に回り込んでいたハルタが茂みから出てきて最初の一匹に切りかかった。彼らは突然ハルタが攻撃を始めたため混乱していた。ハルタは華麗なステップで次から次へとゴブリンを倒していった。俺もそれに応えるように俺も全力で彼らを倒した。そして最後の一匹になると俺たちは2人で斧を振りかざして倒そうとした。


 その時横の茂みから俺たちの身長の倍をゆうに超えるゴブリンが現れて俺たちを吹き飛ばした。俺とハルタは岩へと強く叩きつけられた。体中が痛くて動かそうにも動かせなかった。ハルタは頭部を強く打ったせいか気を失っていた。


「遅いと思ったらこのざまか。みっともねえなお前ら、こんな雑魚どもにやられるとは。非常に不愉快だ」


 どうやらこの巨大なゴブリンはゴブリンたちの統率者らしい。ボスゴブリンと名付けるのにふさわしい強靭な肉体と恐ろしさを備えていた。


「すいません親分、でも獣人の少女は獲ってきました」


「そうかそうかなら許そう。それよりそこの人間二人、よくも俺の手下を殺してくれたな」


 ボスゴブリンが近づいてきた。このままだと2人とも殺されてしまうだろう。だが、解決策は思い浮かばなかった。


「俺の手下を殺したことは許されない。まずはお前からだ、死ねっ!」


 ボスゴブリンがハンマーを振りかざした。俺はここで終わりだと思って目を閉じようとした。その瞬間俺の体の周りにゴブリンの血が撒き散らかされ、彼の頭が足元へ転がってきた。顔を上げるとそこには剣を持ったノルデンが立っていた。


「ノルデンさん?どうしてここに」


「それより怪我はないか小僧。帰ってくるのが遅いからシーナに見てこいと頼まれたんだ。まさかこんな事態になってるとはな。おや、そこにいるのは村長の孫のサリアじゃないか」


「ノルデンさぁぁん」


 サリアは安心したのかノルデンへ泣きついた。


 ハルタが目を覚まし、状況を確認すると俺たちは村の宿屋へと戻った。シーナが心配そうに出迎えてくれた。もう辺りは暗かった。


 夜になって宿屋に村の医者が俺たちを診察しに来たが、幸いにも命に関わるような傷はなく、医者の治癒魔法によって全て回復した。そのあと食堂で夕飯を食べながら今日のことをノルデンとシーナに話した。


「このような目に遭わせてしまい、すみません」申し訳なさそうにシーナは謝った。


「いえ、シーナさんは悪くないですよ、俺たち自らの意思で行ったんですし」


「そうだぜシーナさん、謝まらなくたって」


 ハルタも同じ考えのようだ。


「しかし、ゴブリンどもふざけた真似しやがって。私が少しでも遅れてたらお前たちは死んでいただろうな」


「そういえば、ノルデンさんの剣術は見事でした。どうして宿屋のオーナーなのに剣術を?」


 あの俺の前で行った一瞬にしてゴブリンの頭をはねる剣さばきは只者ではできないようなものだった。


「私は昔冒険者をやっていてな、旅をするうちに剣術を磨いた。小さい頃私は前に話した剣術学校に通っていた。この話はおいておいて、明日村長が孫のサリアを助けてくれたお礼をしたいそうだ。昼ごろ私と共に村長の家に行く」


 ノルデンは自分の過去を話すのを避けたように見えた。


「わかりました」


「でもお礼って言っても村長さんは何をしてくれるんですノルデンさん?」


 ハルタは目を輝かせながら聞いた。


「それは明日のお楽しみだ。今日はもう寝ろ」


 二人に挨拶をした後俺たちは部屋に戻って眠りについた。

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