第30話 母の遺したもの

 そうして火葬を終えた私たちは、精神的にズタズタになりながら実家へ戻りました。

 次にやるのは、母の「負」の遺産を放棄するための手続きです。


 総額いくらなのかなんてことは誰も知りませんでしたが、とにかく多額の負債があることだけは確かです。

 今後どこからどんな督促が届くのか、軽く調べてから放棄の手続きをしようとなったため、私は母が隠していた郵便物を探し、ひっくり返しました。


 ――すると、出るわ出るわ(笑)


 まず、コロナ渦ということもあったのでしょうが、水道代を10万以上滞納していたのに、支払い期限に猶予がついていました。

 もしかすると「コロナのせいで」なんて申請していたのかも知れません。


 後から弁護士先生に聞いたのですが、「水」って生命の維持に必要不可欠ですから……いくら滞納していても督促状を送るだけで、給水停止されにくいものなんですって。

 電気やガスはなくても即死に繋がりませんが、水は致命的だからと。


 ガスは2ヵ月分滞納して、とっくに供給が止まっていたようです。

 ここで驚きなのが、ガスコンロが使用できないことを、兄も姉も知らなかったことですね。

「今まで食事はどうしていたの?」と問えば、「母さんが半額で叩き売りの弁当ばかり買って、それをレンジで温めて生きていた」と。

 金もないのに自炊しないってやべーだろ、セレブか。


 お風呂は古い灯油ボイラーを使っていましたから、ガスが止まってもお風呂には入れていたみたいです。


 そして電気代は1か月分滞納。そろそろ支払わないと、12月の半ばに電気を止めるぞ――みたいな状況でした。


 携帯代も「コロナのせいで」と申請して、数か月間滞納している状態です。


 ライフライン系は酷い有様だなーと思いつつ郵便物を調べていると、祖母が入居していた介護施設から、毎月と言っても良いほど請求書が送られていることに気付きました。


 封すら開かれていないそれを確認すると、以前お話した通り、祖母の施設利用料が一度も支払われておらず。

 そこの利用料だけで250万です。そして祖母が体調を崩して病院へ入院していた時の費用、50万も支払われていませんでした。


 お寺から届いた手書きの請求書にも、過去の法要や葬儀の読経にかかった費用計100万ぐらい書かれていました。


 更に母は、身寄りがないからと、痴呆の入った祖父の兄弟――私にとって大叔父に当たるんですかね――の面倒を、一時期見ていました。

 数週間実家で面倒を見たのち、ある時期から大叔父も施設に入居して……その利用料は大叔父の年金から払われるはずが、母はちょろまかしていたようです。


 母が亡くなった時既に故人だったのですが、大叔父の施設利用料も100万ほど滞納していました。最早、詐欺犯罪の領域です。


 大叔父の年金までちょろまかして、母は一体何に使っていたのでしょうか……本気で謎です。


 ――この時点で、負債は500万を超えています。

 しかもそれだけでなく、なんと実家の家屋と土地が「抵当」に入っていました。


 抵当というのは、借金した際、金が返せなくなったら貸し手が自由に処分して良いと約束する、借り手側の品物、担保のことです。

 その抵当額が500万円。


 家と土地が抵当に入れられたのは、私が中2の時分だったようです。正に私が、友人を一気に失くした頃。


 これも弁護士先生から聞いたのですが、母は恐らく家などを抵当に入れる前から、複数の消費者金融から多額の借金をしていたのだろうと。

 それらの借金を一社でまとめて、金利を安く済ませる――所謂「おまとめローン」だろうと予想していました。


 金利は、借りる額が上がれば上がるほど安くなるものですからね。

 何故なら完済するまでに相当な時間がかかるので、例え安くしても長期的な金利の回収、利益が見込めるからです。


 おまとめローンというのは、ある一社が他の金融会社の借金まで肩代わりして、高額融資するもの。

 肩代わりとは言っても一時的なもので、もちろん全額支払う義務はあります。

 おまとめローンを名乗り出た一社は、他の会社が回収するはずだった金利まで、ガツンとまとめて売り上げにできる訳です。


 ……しっかり返済してくれればの話ですけれど。

 だからこそ「もしも」の時のために、担保、抵当を用意させるんですね。

 滞納なんてしようものなら、お前の家と土地はウチが貰うからな、約束だぞ――と。


 つまり抵当額まで合わせると、母の負債は1,000万円を超えていたのです。

 軽く調べただけでコレですから、本当はもっと凄いと思います。生身の人間から借りたものだって多いでしょうし。


 母はいつも、「ライフラインが止まるから」「どこそこの借金の支払いがあるから」と言って、兄や姉から金を巻き上げていました。

 しかし実際は、ほとんど支払われていなかったのです。彼らが貸した金は、どこへ消えていたのか。


 いくら考えても、答えは出ませんでした。

 ふらりと1人で出かけることもあったというから、やはりパチスロ? それとも愛人でも居たのか? 全く分かりません。


 恐る恐る携帯の通話履歴やメールを見ましたが、別段おかしいところはありませんでした。

 特定の誰かと頻繁に会っていたとか、つい最近誰かと金の貸し借りをしていたという履歴もありません。


 母は謎にタブレットまで契約していて、そちらのメールの履歴も調べました。

 すると、あまりにも悲しいものが出てきて。


 ――皆さん、占い詐欺をご存じでしょうか?

 幸せになる壺を購入しろというものではありません、ネットサイトを利用した詐欺です。

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