第24話 父の次は祖母

 ――結局、葬式についてはつつがなく進行できたと思います。

 満中陰志もお茶菓子も準備万端、参列者の対応もそれなりにこなせました。


 お坊さんの読経が終わったら棺の蓋を開けて、父の周りを花で敷き詰めて。

 そうして火葬場の前まで棺を運べば、焼却炉の中に入れられます。


 いよいよ「点火」のボタンを押しますという時に、母は泣き崩れて「できない、誰か代わりに押して」と懇願しました。

 ――その時は確か、兄が押したんだったかな?


 1時間半後には遺体を焼き終わって、家族でお骨を拾いました。

 私と兄は最後まで涙の一滴も出なくて、母は度々思い出したように泣いて、姉はそれに釣られて。


 そこでようやく、長く苦しい2日間が終わったという感覚。

 私は色々な意味で疲労困憊で、「じゃあ、まあ、なんかあれば連絡して」とだけ言い残して、自分の家へ帰りました。


 ――ちなみに職場の上司。

 私の求婚には全く頷かないくせに、しっかり焼香をあげに来てくれたのが可愛かったです←

 まあ、「直属の上司として当然のことだから」と言われましたけど(笑)


 そこから1、2年は何事もなく、平和そのもので――。

 途中、父の法要や納骨で呼ばれることはありましたが、困りごとはありません。

 私は相変わらず、ホテルのフロントスタッフとして働いていました。


 家族との関わりは、半年に1度くらい母が金の無心メールを送ってくること(もちろん断ります)、兄が家の愚痴メールを送ってくること。

 あとは、家族の誕生日を祝うメールを送り合うぐらいです。


 しかしある日の早朝、全く知らない番号から私の携帯宛に電話がかかって来ました。

 基本的に知らない番号には出ないと決めていて、留守電を聞いてから、折り返すかどうか判断します。


 そうして留守電メッセージを聞いたところ、どうも祖母が入院している病院からの電話だったようで――今すぐに伝えたい事があるから、折り返して欲しいと。


 先に母と姉にも電話したようですが、どちらも熟睡していて出なかったのでしょうね。

 というかまず、自分の番号が緊急連絡先として登録されていたことに驚きました。


 しかも私はその時、祖母が入院していることすら知りませんでした。ずっと施設に居るものと思っていたので。


 直感的に、「祖母が死んだ」または「何かしらの支払いの滞納だ」と思いました。

 慌てて折り返すと、予想通り「今朝、亡くなりました。ご遺族の方に死亡確認をして頂きたいのです」と。


 感覚的には、ついこの間父の葬儀をしたばかりなのに、「またあの、ギスギスした空間に放り出されるのか~」でした。

 とは言え、弱音を吐いている場合ではありません。


 私はすぐさま上司に「今度は祖母です」と伝えて、職場にも「申し訳ないけど、また忌引きを頂きますと」連絡して――2度目だったので、もう慣れたものですね。


 何度も母の携帯に電話をかけましたが、全く起きる気配がなく……仕方なく、直接向かうしかないと実家へ向かって。

 結局、私の移動中に目覚めた母は、「ごめん、すぐ病院へ行ってくる!」と言って、すれ違いになりましたけど。


 とりあえずお通夜と葬式があるからと、私はそのまま実家で待機することにしました。


 やはり2度目だったので、家族も全員手際がよくなっていて――祖母の葬儀は、最初から最後までスムーズに終えられたと思います。

 スムーズ過ぎて、正直ほとんど覚えていません←


 ただ、その時もまた親戚に「ましろは、ホンマに泣かんなあ」と指摘されたことだけは覚えています。


 実の父親が亡くなって骨になっても、何とも思わなかったのですから……そりゃあ、長らく離れて暮らしていた祖母が亡くなったからって、涙が出るはずがないのです。


 私が借金地獄でしんどい思いをしていた時に、少しでも手助けしてくれていれば話は別ですが――特別な思い入れも恨みも何も抱かず、ただただ「亡くなったのか」。それだけです。


 やはり泣くのは母と、それに釣られる姉だけでした。


 ――母はともかくとして、姉が泣く意味は本気で理解できませんでした(笑)

 兄と一緒に、「あ、あれだけ虐待レベルで、言い上げていたのに……!? 一体どこに泣く要素が……!?!?」と驚愕しましたよ。


 言動に一貫性がないというか、なんというか。

 火葬場の点火スイッチは、姉が押したんだったかな……本当にスムーズ過ぎて、よく覚えていません。


 祖母は施設に居た時も、病院に居た時も、親戚がよく見舞いに行ってくれていたようです。

 だからきっと死に際の寂しさは、父よりも少なかったのではないでしょうか。


 ――打って変わって、施設に入るまで同居していたはずの私の家族は、ほとんど見舞いに行っていなかったそうです。

 そもそも祖母に対する情が薄い兄と、サイコパスの姉だけでなく……母まで。


 理由は単純明快で、母が祖母の入院費も施設利用料も、何一つとして支払っていなかったからです。

 入れるだけ入れて、「じゃあ、あとはヨロシクー! お金は一銭も払いませんけどねー!」という状態だったらしく。


 相変わらずぶっ飛んでますよね。やべえ。


 私たち兄弟がその事実に気付いたのは、今月の初めでした(笑)

 請求書や督促関係の郵便物、全部かき集めて隠しちゃってたみたいです。詳細はまた別の回で!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る