第28話 ドスケベ聖機獣の決意

 街でソフトクリームを買って、ドワーフたちの作業場へ向かう。


「で、何か掴めそうか?」


 尋ねてみたが、ドルルは首を振る。


「ドリルとこの子を融合させる案は、おそらく通る。けれど、ドリルの理念がまだ」


 直進しかできないドリルと、あさっての方向ばかりへ移動するカメ。


 この二つを組み合わせても、まともに機能するかわからない、とドルルは嘆く。


 一方、話題の中心となっているブーゲンは、ドルルの胸に抱かれていた。ペロペロと、ソフトクリームを舐めている。


「味がわかるのか?」

『おうとも。美少女に食わせてもらっているなら、なおさら最高だぜ!』


 見た目通り、コイツはスケベなようだ。


 俺も食ってみた。機械にはこういう食べ物は不要なのだが、味は感じられる。確かにこれはウマい。人間当時の味覚が、この状態でも感じられるとは。


「ドルル、お前さんが真っ先にやりたいことは?」

「攻めも守りも頑強なロボットを設計したい」


 攻撃特化のドリルに、防御特化のカメを組み合わせる、か。


「理念が矛盾してないか?」


 ドルルの考えは、文字通り「矛と盾」だ。


「できればそこをクリアしたい。それができれば、オイラの聖機獣が完成しそう」


 しかし、そううまくいきそうにない。課題は山積みだ。


「それにしても、ドングリだらけの並木道だな」


 俺たちの足元には、大量のドングリが落ちている。この世界のドングリは皮が固く、滑りやすい。


 俺も、ドングリに足を取られた。


 よく見ると、ソフトクリームのワッフルコーンも、ドリルに見えてくる。


「待てよ。このドングリに、ドリル……ああ、そうか」


 方向変換ができないドリル問題を、俺なら解決できるかも知れない。


「何かわかったのか?」

「実は、俺が元いた世界で開発していたロボットが、ドングリに足を取られたことがあってな」


 俺は軽い骨折程度で済んだ。

 しかし、ロボットの方は足が破損する大事故に。


 それでも、俺はあきらめなかった。

 治療の間じゅう、ずっと足回りの改善に何かを使えないか考えていたのである。


「そこで思いついたのが、ドングリから着想を得た全方位タイヤだ」


 要は、ドングリのような小さい車輪を、足の裏に接続した。

 この設計のおかげで、横移動も可能な車両ができあがる。

 その後、これをロボに転用したのだ。

 結果、小石などに足を取られない、安定したロボが完成したのである。


「なるほど。つまり」

「そうだ。ドリルの構造を密集したドングリ型にする」


 ならば、下部の車輪はいらない。ドリルがドリルのまま、自走できるのでは。


『うんうん。だいたいわかったぜ』


 ドルルの胸から跳ね上がり、ブーゲンがドリルに近づいていく。ドリルをよじ登り、手を添えた。


 ズブズブ、と、ブーゲンの手がドリルに吸い込まれていくではないか。


「おい、ブーゲン! 大丈夫なのか?」

『ドリルが、オレっちの呼びかけに応えてくれているぜ! お前の設計理念は、頭を読んでなんとなくわかったぜ。あとはオレっちに任せな!』


 とうとう、ブーゲンは完全に吸い込まれた。


 ドリルが、光り出す。本当に、大丈夫なのだろうか?


 俺たちが見守っていると、ジョイスが作業ラボに現れた。


「勇者ヒナト、大変だ。この近くの鉱山を、機械帝国が乗っ取った!」

「なんだと!?」


 リーダー格は女性の魔物らしい。

 その魔物は自身を「魔女」と名乗っているという。


「ドワーフ隊が応戦していたが、撤退した。動けるのは我々しかいない!」


 だったら、行くしかないな!


 しかし、一足先に動いたのはドルルである。さすが、血の気の多さはドワーフいちと言えた。


「ドルル! お前はブーゲンを見ていてくれ。もしブーゲンに変化があったら、必ず乗せてくれるはずだ。頼む!」

「……わかった」


 ドルルひとりに留守番を頼み、俺たちは鉱山へと向かった。

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