第27話 暴走カメ ブーゲン

「フン、あんたらからは不思議なオーラを感じる。あんたらならあるいは、ってカンジだね?」


 言いながら、魔女はリオと俺を交互に見る。またイヒヒと不敵な笑みを浮かべながら。


「そうなんですか?」

「まあ、いいさ。お買い上げだね? これくらいでいいよ」


 魔女が提示した金額は、随分と安い。


「タダ同然じゃないですか」

「いいさね。むしろ引き取っておくれ。持て余していたんだよ」


 たいした額も取られず、俺たちは謎のカメをゲットした。


「結構です。ありがとうございました」

「礼を言うのはこっちさ。では」


 魔女の店は、忽然とその場から姿を消す。

 まるで、最初からそこになかったかのように。


 カメだけが、リアルに手に収まっていた。


「なんだったんでしょう。今のは?」

「さあな。とにかく、開けてみようぜ」


 カメの方も、『そうだそうだ』と急かす。


 それにしても、暴走カメと説明を受けていた。


 危なくないように、一旦町の外で解放することに。


「お前、聖機獣なら名前があるはずだよな?」

『ブーゲンだ。よろしくな!』


 公園にたどり着く。幸い、人も歩いていない。ここでいいだろう。


「殴ったら危ないよな。地面に叩きつけるが、いいか?」

『殴ろうが叩き壊そうが、どうってことねえよ! 好きにしな!』


 ブーゲンがブンブンと手を振った。


「いいか、割るぞ?」

「おっけー」


 ドルルから、了解を得る。


 俺は思い切り、瓶を地面に叩きつけた。


 小さかったカメが、バスケットボール大にまで大きくなる。


『ありがてえ! これでオレっちは自由の身だぜ!』


 カメは背中の甲羅で、クルクルと回りだす。まるで手足をブレイクダンスのようにバタバタさせながら。


「おお、ドリル」


 その回転を見ながら、ドルルはドリル回転を連想しているようだ。


『うおおお! 止まれ止まれぇ止まってくれぇ!』


 しかし、制御が効かないアクシデントに。リオのスカートの中に入ってしまった。


「いやあああ!」


 リオが思わずと言った形で、カメをシュートする。


 カメは街頭に当たり、ベンチを破壊し、鉢植えに穴を開けた。


 ドルルが回転するブーゲンを掴んで、ようやく止まる。


『あー、助かった』

「助かったじゃない」


 ドルルが、ブーゲンにデコピンをした。


『悪かったって。危ねえ危ねえ。またソータムの街の惨劇を繰り返すところだったぜ』

「ソータムの!? あの街の大破壊は、あなたの仕業だったのですね!?」


 知っているのか、リオ姫。


「なあ、ソータムの街で、何があったんだ?」

「聖機獣の開発・実験をしていた街だったのです。しかし、一体の魔物によって滅びたのです」


 一匹のカメのバケモノに、小さな都市が破壊されたらしい。


「死者が一人も出なかったのが不思議なくらいの、大破壊でした」


 ぺんぺん草すら生えてこないレベルの、崩壊だったという。


「どうしてこんなことに?」

『オレっち、聖機獣のテスト中だったんだよ。自由の身になれてうれしいぜって踊っていたら、バランスを失っちまってな』


 ブーゲンが街も基地も完全破壊してしまったせいで、ソータムの街は聖機獣の開発ができなくなってしまったとか。それだけではない。街に誰も住めなくなった。


「仕方なく住民たちは街を放棄し、新天地で再起をはかったそうです」


 まさか自分たちが開発した聖機獣に、街を壊滅させられるとは。


「それで、お前さんは封印されちまったと」

『ああ。で、再度調整しようとしたら、魔女がやってきてオレっちをさらっていったんだ』

「今の魔女か?」

『違う。あっちは買った方だ。オレっちをさらったヤ魔女のヤロウは、もっと若い女だった」


 若い魔女にさらわれ、ドレイ商に売られて各地を転々とさせられたらしい。老婆の魔女に救ってもらうまで。


「きっとあの魔女さんは、ブーゲンを保護していたのかも知れませんね」

「俺たち勇者が尋ねるのを、待っていたのかもな」

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