第26話 おさんぽでカメと遭遇

「とはいえ、外に出ても大丈夫だろうか?」


 俺は、リオに尋ねてみた。


 外へ出て、敵襲が来たらヤバい。


「我々も敵側も、戦力が大幅に減少しました。どちらの勢力も、立て直しが必要です。


 こんな姿だと、街の人を怖がらせてしまう。

 俺は、手頃なヨロイカブトを用意してもらった。


「よし、なんとか収まったな」


 全身ヨロイ姿なら、「ああ、あれは姫様の護衛なんだな」と思ってもらえるはずだ。


「とりあえず、街でショッピングなどはいかがでしょう?」


「いいね」といいつつ、ドルルはいきなり魔女の住んでいそうな小屋へ。


「ええっ!? もっとスイーツの味比べとか想像していたんですが?」


 リオが、ドルルを追いかけた。


「ああいうのが、好きなのか?」

「ドルルさんは変わり者ですから、ありえますね」


 俺とリオは、ドルルの後を追う。


 狭い小屋の中は、魔女が使いそうなアイテムで溢れていた。

 トカゲの干物やドンキとして使えそうな分厚い本などが置いてある。

 怪しげな宝石や、黒い液体は、絶対に触れたくないな。


「カメ……」


 一匹の動物に、ドルルは目を奪われていた。瓶に入ったカメだ。


「薬品用ですね。滋養強壮に利くらしいですよ」


 ドルルは、リオの解説に聞き入っている。


「どうやって入ったんだ?」


 瓶が入っているのは、酒を入れる瓶だ。カメを入れるには、口が細い。


「分厚い装甲の印象。一応候補として取り入れておく」

「わかったわかった。とにかく行くか」


 冷やかしがこれ以上店にいては、邪魔になる。


 興味津々のドルルの手を引き、店を出ようとした。


『おい、そこのメス! オレっちをココから出してくれよ!』


 どこからか、何者かが語りかけてくる。

 オレという割に、少女っぽい声だ。


 謎の声は、テーブルから聞こえた。


『ココだよココ! おめえらの真下!』


 声は、カメの入った瓶から聞こえていたらしい。


『おめえら、さっきオレっちのこと、ジロジロ見てただろ?』


 カメが、しゃべったではないか。


『助けてくれ! ドレイ商に捕まって、売り物にされちまったんだ! 助けてくれたら、お礼にイイコトをしてやろうじゃんか!』


 瓶を持って、俺は硬直する。


「どうする?」


 俺は、現場責任者たるリオに相談をした。


『オレっちだって、聖機獣なんだ! 悪さなんてしねえ!』


 聖機獣! どうして、聖機獣が閉じ込められているんだ?


「ここは、助けましょう。もしリスクを取ったとしても、我々DDD機関が責任を持ちます。事情も聞きたいですし」

『そいつぁありがてえ! 今すぐお買い上げを頼むぜ!』

「慌てないでください」


 カメとリオが話し合っていると、店主らしき老婆がリオのそばに。


「誰と話しているんだい?」


 老婆が、リオに問いかける。


「ああ、このカメと話していたのかい? 変わった動物だろ? みんな気味悪がって手に取らないのさ」


 カウンターに「よっこいしょ」と腰掛けて、魔女が一息ついた。


「すいません、このカメさんを買いたいのですが、解放するにはどうすれば?」


 リオがカウンターの魔女に語りかける。


「割ったら普通に出てくるよ。ただし、暴れたって保証しないからね」


 店主の魔女は、イヒヒと笑う。


「暴れるとは?」

「こいつは、街の暴れん坊だったのさ」


 なんでも、街を壊して回っていたらしい。

 権力者が呼んできた魔法使いの手で捕まった。

 ドレイ商を巡り巡って、この魔女の元に流れ着いたという。


 購入を考えていたリオも、話を聞いてからは、ためらいが見えた。


「次に暴れたら、殺すしかないよ。それでもいいんだね?」


 まるで脅すかのように、魔女が問いかける。


 リオは、ドルルの顔を見た。


 ドルルは、リオとカメへと交互に視線を送り、うなずく。


「だからなんだっていうんです。我々は勇者のしもべ。荒事には、慣れっこですから」


 リオは、平然と瓶を手に取った。

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