第25話 聖機獣 

 洗濯を終えて、俺は手持ち無沙汰になった。


 誘われるままに、ドルルの作業場へ。

 リオ姫の秘密基地も相当大きかったが、ここも体育館かバスターミナルくらい広い。


「うわあああ」


 そこには、模型がたくさんあった。

 搭乗型ドローンに戦車のサンプルが沢山ある。


「ここで設計をして、ここか秘密基地で組み立てる」

「あれ、聖獣のフィギュアもあるな?」


 ハンドレオン、シャドウ号のフィギュアに目が行った。


「彼らの正式名称は、【聖機獣】という。我々ドワーフが作った、勇者のサポートメカ」


 メカって単語が一般化しているほど、この世界の文明は発達しているのか。

 その割に現代日本とは違った文明の進化をしている。

 理由はやはり、機械帝国との戦争だろう。

 あらゆる科学が、軍事に直結しているように見えた。


『久々に、サッパリします。DDDトリプル・ディー本部のお屋敷でも整備はしてもらえます。けれど、細かい調節は本職の方に限ります』


 ドワーフの職員によって、ハンドレオンは毛並みを整えてもらっていた。

 先日は激しい戦いを乗り切ったので、特に見えない痛みが酷いらしい。


『まったくだぜ。ブラスターなんて、もう何年も吹いてなかったからよぉ』


 シャドウ号も、手術台に横たわった状態で笑い出す。

 よく見ると、発射口などが煤けていた。


「お二方とも、お疲れさまでした」


『滅相もない! 姫をお守りできるなら、このくらい!』


 主人を安心させようとしてか、ハンドレオンが部屋中を走り回る。

 レオンは路線バスくらいでかい。


 いくら作業場が広いとはいえ、窮屈に。


『暴れるんじゃねえよ。ネコじゃあるまいし』


 シャドウ号が、レオンに不満を漏らす。


『ネコとはなんですか!? ボクは気高いライオンですよ!』

『ライオンなら、もっと堂々としてやがれ』


 整備を終えたシャドウ号は、主であるジョイスの元へ行くという。


『またなヒナト。戦闘になったら、オレサマを呼ぶんだぜ』

『待ちなさいよシャドウ号! まだ話は終わっていませんからね!』


 負け惜しみを言うレオンを放っておき、シャドウ号は作業場から姿を消す。


「ヒナト、ここに来てもらったのは他でもない。見せたいものがある」


 俺は、ドルルに作業場の脇まで案内してもらった。


 そこにあったのは、円錐型の巨大な物体である。


「実は、このタイプの聖機獣を作っているが、アイデアが湧かない」


 ドルルが見せてくれたのは、円錐状の工具だ。


「これは、ドリルか?」


 まごうことなき、ドリルだった。


「コンセプトはできている。ダイデンドーの装甲を活用して、ドリルで近接攻撃をするタイプ」


 まっとうな、男気あふれる提案だな。


「とはいえ、どういうモンスターをイメージすればいいか」


 たしかに、ドリルはドリルのまま使うのがいいが。


「問題が一つある」

「なんだ?」

「直進しかしない」

「ああ……」


 ドリルを支える荷台には、車のように車輪がついている。

 さしずめドリル戦車といえばいいか。


「でも、このデカさなら、どんな硬い装甲だってぶち抜けるじゃないか。何が不満なんだ?」

「それしかできない」


 俺は絶句する。


「今さら、『ドリルは前進あるのみ』なんて考えは古い。すぐに対策される」


 なるほど、『熱血が今の子どもたちにウケない』状態にも通じるものがある。

 困難を気合でなんとかしていた時代は終わったと、なんとなく世間的にわかってしまったから。

 思考にリアリティがないのである。


「一旦、企画から離れないか?」


 なんか、一度リセットしたほうがいいかも。

 今のドルルは固定観念にとらわれすぎている。


「部屋にこもってばかりでも、アイデアは出てこないぜ」

「そう言われても」


 結構、追い詰められているな。


「そうですよ、ドルルさん。ここは一度、外へ出てお散歩しましょう」

「設計をほったらかして?」

「だからです。脳に新鮮な空気を送り込むのですよ」

「いいな。散歩するか」


 俺も同意して、ドルルを散歩へ誘う。

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