第三章 ドリル! 聖機獣のロマン!

第24話 物干し竿

 翌朝。


「あっわあああああ!? 勇者さまが!?」


 俺の様子を見て、朝食を取ろうと表に出たリオが青ざめた。


 そりゃあそうだろう。憧れの勇者が、物干し竿にされていたら。


 オレは仰向けになって、両手両足にロープを通し、シーツや衣類を干している。


「はっはっはっ。今日は日差しが気持ちいいから、よく乾くなぁ!」

「オーケー、ヒナト。助かった。これでみんなの分の洗濯も乾く」


 そういうのは、ドルルだ。

 ドワーフの少女で、この物干し作戦の発案者である。


「お役に立ててなによりだ」


 人の役に立つって、爽快だな。


「役に立つ以前に、いったいどういうことなんです!? どうしてお洗濯なんて!」

「ドワーフの都市で俺にできることはないか相談したら、洗濯を手伝ってくれと言われたんだ」


 状況が読めないリオに俺は説明をした。


「ヒナト、次はコレ」


 ドルルが俺の足首部分に物干しロープをくくりつける。

 布団やカバーをせっせと干していく。


「そんな! 勇者さまには世界を守るという大事な使命が!」

「だったらなおさら、日常のほうが大事だろ?」

「え、ええ」


 俺が言うと、リオが黙り込む。


 正義のロボットと言われると、どうしても戦闘に目が行きがちだ。

 しかし、それよりもっと大事なことはたくさんある。


「ウチの兄貴も、子育てをないがしろにして離婚の危機にひんしたっけ」

「ヒナトって、アニキいるの?」

「二つ違いの兄がいる。仕事が楽しすぎてな、帰らないことも多かった」

「どのようなお仕事を?」

「スポーツカーのディーラーだ」


 つまり、「速い車を売り、整備する仕事である」と、リオには説明した。


 しょっちゅう走りに行って、家庭をほったらかしていたのである。

 何台の車を、崖にダイブさせたか。

 その度に、嫁さんに怒られていた。その度に、実家に戻ってくる。


「一度マジで死にかけて、『ようやく家族のありがたみを知ったよ』ってさ。バカなんだ。うちのアニキは」


 ピンチを乗り切ったためか、今は、夫婦円満らしい。

 しかし、車いじりはやめられないと話していた。


「下に妹もいてな。俺は中間子だったんだ」


 妹は大学の時点で就活をあきらめ、イラストで食っている。


「知りませんでした。貴重なお話です」

「ただの機械だと思っていた」


 リオもドルルも、俺の話を黙って聴いていた。


 自由に生きすぎる兄と妹に囲まれて、育ってきたからだ。

 中間子の俺は、文字通り「中間」をとったのは。

 仕事はちゃんとしつつ、趣味に生きると。


「なのに兄貴から、『お前が一番こだわりが振り切れている』って言われるんだ。妹からも、『お兄ちゃんがいちばんめんどくさい』って言われたもんだよ」


 俺が皮肉を言うと、ハンドレオンが『プッ』と吹く。

 すぐ真顔になったが、目が笑っていた。


『一生家族に恵まれないだろう』と、二人からは言われたっけ。


 そうかもしれない。ロボになった今の人生が、一番楽しいから。


「さて、仕事再開」


 ドルルは俺の足によじ登った。

 足先にロープをくくりつけ、反対方向へジャンプする。

 ロープへ衣類を通して、俺の足先にロープを結ぶ。


 これは……。


「ひゃあああああ!」


 またしても、リオが悲鳴を上げた。自分の下着を干されたのだから。


「ダメダメダメ! こんなのダメです! ハンドレオン!」


 リオはハンドレオンに指示を送り、二人で熱風魔法を唱える。


 ドライヤーの要領で、すべての洗濯物が一気に乾いた。

 これは便利な魔法だな。自分でも使ってみたい。


「なんでダメ? 下着が一番汚れている」


 スポーツ用に着るようなブラやショーツを持って、ドルルは首をかしげた。


「ダメなものはダメです! 今度からはわたくしに言ってください! すぐに乾かして差し上げます!」

「天日干しが一番」

「それでもアウトです!」


 リオはドルルと一緒に、洗濯物を取り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る