第20話 卑劣、マシラ男爵

 円盤はエイを連想させる姿で、底面に真円型のモニターがある。


「ギャハハのハーッ! なーに手こずっちゃってんのメレディスちゃーん! 手を貸してやろっかー?」

「ざーこ」


 真円の底面から、白いゴリラの映像が映し出された。

 頭が二つあり、カプセルをかぶっている。

 左はヒゲの生えたゴリラのオッサンだ。

 右は星型のグラサンをかけたツインテ幼女である。

 夢に出てきそうであり、二度と見たくないデザインだ。


「下がれマシラ男爵! キサマの手は借りぬ!」


 メレディスがコクピットをむき出しにして、画面に向かって怒鳴る。

 露骨に、嫌悪感をあらわにした。


「まあまあそう言わずにさぁ、受け取ってよ」

「ポチッとな」


 マシラ男爵という名のゴリラが、赤いボタンを押す。

 エイのシッポから、電流がスパークした。


「あの電流はやべえ!」


 俺は、ダイデンドーの合体を切り離す。

 姫とハンドレオンを、できるだけ遠くへ逃すためだ。


「ぐおおおおおおお!」


 俺たちのいる場所に、電流が流れる。

 俺たちだけじゃない。メレディスの機体にまで。


「あああああああ!」


 電流は、味方も敵も巻き込んだ。


「う、ぐ……」


 電流を浴びた機体は、各種パーツがショートしていた。

 ドワーフたちの戦闘車両も、動かない。


「勇者さま!? ご無事ですか!?」

「平気だ! 安心しろ!」


 それにしても。


「自分の味方ごと攻撃するとか、最悪なやつだな!」

「そこにいるのが悪いんでしょお?」


 メレディスが批難するも、マシラ男爵はまったく悪びれていない。


「ボクちゃんは敵が密集している場所を攻撃しただけ。敵味方識別なんて器用なマネはさぁ、ボクちゃんにはできないわけ。わかるぅ?」

「クソざこ」


 なるほど。メレディスが嫌うわけだ。

 機械兵団には、こんなクズいヤツもいるんだな。


「手柄を横取りするだけなら構わん。我は目的が遂行できればよい。だが、自軍さえ切り捨てる考えは、ガマンならん」


 マシラ男爵は、メレディスの言葉にため息をつく。


「あのさあ、こっちだって目的があってきたわけ。邪魔なのはそっち」

「でくのぼう」


 二人が争っているスキに。


「ナックルチェーン!」


 俺は、腕を飛ばす。


 しかし、チェーンが届かない。


「くっそ。これはどうだ? ミサイル!」


 ミサイルすら、射程外とは。


「ケケケ! お返しだぜ」


 再度、マシラ男爵がボタンを押した。


 雷撃が、俺たちの方へ……来ない! 


「きゃあああ!」


 やべえ。今度は、リオが狙われている!


「姫ええっ!」


 ジョイスが、シャドウ号をぶっ飛ばしてリオのもとへ駆けつけようとしていた。


 しかし、このままでは二人共。


「ナックル・チェーン!」


 二人の前に出て、俺は腕を飛ばす。


「その雷撃、全部俺が引き受けるぜ!」


 俺は避雷針となって、二人をかばう。


「であああああああ!」


 電流が、俺の体を駆け巡った。

 ダメージを負った状態で受け止めた分、痛みも激しい。


 さすがにこたえた。俺は、ヒザを落とす。

 身体からは、火花が散っていた。

 しかし、相手に攻撃が当たらないなら、せめて攻撃を全部受けるくらいは。


「どうした、メレディス? チャンスだぜ」


 俺は、メレディスに手招きをする。


「ぬ……」


 しかし、メレディスはかかって来ない。警戒してるのか、それとも。


「んだよ? 気を使う必要はねえぜ?」

「気など、使っておらぬ! キサマは何をしでかすかわからん。満身創痍といえ、油断ならない」


 あれだけ奇襲をかけられたらな。警戒もするだろう。


「勇者さま!?」

『ヒナトさま!』


 リオとハンドレオンが、俺に治癒魔法を施す。


 痛みは引いた。体力はまだ戻らない。これはマズイかもな。


 突然、リオが俺の前で両手を広げた。

 マシラ男爵の円盤から、立ちふさがるかのように。


「撃つなら、わたくしを撃ちなさい!」


 やはり、リオは自分から標的になるつもりだ。

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