第13話 レベルアップ

「勇者ヒナト様! よくお考えになってください。あなたをこんな場所に寝かせるなんて!」


 俺が倉庫を寝床に希望すると、リオが猛抗議してきた。


『そうですよ。よりによって、こんな狭くて暑苦しいところを!』


 ハンドレオンも、俺がここで寝ることをよしとしていない。 


「問題ない。というか、ここがいい」

「大問題ですよ! 勇者を倉庫で寝させるなんて!」

「ロボットの俺には、うってつけだろ?」


 手を枕にしても、ロボだから痺れたりはしない。

 快適そのものなんだが。


「もっと特別な寝室をご用意いたしますのに」

「たとえば?」

「わ、わたくしの寝室とか!」

「それは困る!」


 さすがに、女性の寝屋にお邪魔するとか、生前でもしなかった。

 イトコの姉さんが誘ってきたりもしたが、断るのに苦労したっけ。


 しかし、俺のモテ期は生きている間にはこなかったなぁ。


「わたくし的にはご褒美なのですよ! 鋼鉄の中に秘められた熱いハートを肌で感じながら眠りにつけるなんて……わたくしったらなんてはしたない!」


 なんだか姫は、一人で盛り上がっていた。


「ああ、もういいか?」

「……はっ、ごめんなさい! なんでしょう、ヒナト様?」

「ああなんでもない。こっちの話だ」


 いかん。今の俺は、異世界にいるんだった。

 こんな性癖の姫だっているよな。


「それで、考え直す気は……」

「結構だ」


 あくまでも、俺は考えを曲げない。


「倉庫が気に入った。兵器や武装、アイテムに囲まれて眠れるんだ。最高じゃないか」


 ここには、たくさんの兵装やアイテムが集まっている。 

 いわば、貴重な情報源だ。逃す手はない。


「そこまでおっしゃるのなら……おやすみなさいませ。もし、不快なことがございましたら、すぐにご報告を」


 さすがの姫も、引き下がる。


「ああ。気をつけてな」

「はい」


 ハンドレオンとともに、姫がトボトボと向こうへ歩いていった。

 自室へ戻っていくのだろう。


「……さて、トリセツさん」

[お待ちしておりました]


 勝手知ったる感じで、トリセツさんことシステムボイスが応答した。


「レベルアップしたんだろ? 今のうちにパワーアップしておきたい」


 横になりながら、システムボイスに問いかける。


[承知いたしました。基本性能は攻撃力、機動性、耐久値の、どちらを優先させますか?]

「そうだな。誰かを守れる力がほしい」


 硬さを優先して、駆動面を少し伸ばす。


[攻撃力は?]

「多少スピードも上げれば、自然と攻撃の幅も広がるだろうし。保留かな?」


 とはいえ、ゼロだと心もとない。申し訳程度に伸ばしていこう。


[では、攻撃二、防御五:回避三の割合で割り振っておきます]

「頼む」


 グググと、身体が引き締まっていく気がした。

 これがレベルアップというやつか。


 あとは、スキルを取ろう。


「えっとぉ、【マジック・ミサイル】とは?」

「文字通りミサイル発射機能です」  

「どれだけ撃てる?」

「約、二万発は」

「にまん、って」


 そんな大量のミサイルが、俺の身体に詰まっているのか?


「正確には【武器庫】に収納された武装を、体外へ放出するのです」

「別次元から、重火器を召喚しているのか?」

[そのとおりです。地球でも、この世界でもない、あなただけの武器庫が、別の時空に存在しているのです]


 ハッチ一つ一つが召喚器になっていて、砲撃する仕組みとなっているらしい。


【アイテムボックス】と呼称した方がわかりやすい、とのこと。


「なんだか、ほんとにロボになっちまったんだなぁ」

[実感はありますか?]

「正直言うと、ないかな」


 しかし、この姿で生きていく必要がある。


「明日になったら、元の人間に戻っている、なんてないよな?」

[後悔していらっしゃいますか?]

「いや」


 この肉体になったおかげで、多くの人を救えた。


「感謝してるよ」

[安心いたしました。ゆっくりおやすみください]

「ああ。また明日」


 俺は眠りにつく。 




 翌朝。


「ドワーフの基地に敵襲ーっ!」


 俺は、兵士の声とけたたましいブザーで目が覚めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る