第12話 ライオンとオオカミのケンカ

「お前と?」

『ああ。ダイデンドーに従う聖獣は、一匹じゃねえ。他にもわんさといるんだ。オレもそうやって開発された。大昔にな』


 システムボイスに確認を取ると、たしかにその事実はあるという。


『どうだヒナト? オレと組めば百人力の活躍をしてやんよ。姫にすり寄ってるネコなんかより、よっぽど役に立つぜ』

『ネコとはなんですか、ネコとはぁ!? 我はライオンですよっ! ガーフォールド家に仕える、由緒正しき獅子なのですよ!』


 ハンドレオンの態度が、豹変する。

 普段から、シャドウ号とケンカをし慣れしているようだな。


『この間までビビってたネコだろうがよ』

『なにをーっ! やりますかワン公がぁ!?』

『望むところだぜ、ニャンコロがオレに勝てると思ってんのかよ!』


 二匹の聖獣が口論を始めた。


 これはまずいな。俺のせいで仲間割れになってしまった。


「いいかげんになさい!」


 リオが割って入る。


「ケンカはおやめなさい。勇者様の前ですよ!」


 いつになく、リオは真剣な顔つきだ。


「今は人類存亡の大事なときです! そんな大事な時期に、聖獣同士が口論している余裕なんてありません!」


 大好きな姫に叱られて、二体の聖獣はしょぼくれる。


『はい。ごめんなさいリオノーラ様』

『ちっ。わかったよ』


 シャドウ号も、おとなしく引き下がった。


「ジョイス、卑屈になる気持ちもわかります。わたくしのせいですわね。ごめんなさい。でも、食べてくれませんか?」

「とんでもありません。こちらこそ意固地になって……いただきます」


 リオに諭され、ジョイスはようやくメシを食らう。


「おいしいです!」

「そうですか。おかわりもありますから」

「はい。ありがとうございます。兵に代わって、お礼申し上げます」


 姫に言われて無理やりというより、心から感謝しているみたいだった。


「よかったな。リオ」

「はい。勇者様」

  俺たちが話していると、おにぎりを持ったままジョイスが立ち上がる。


「そこの! 気安く姫を呼び捨てするんじゃない!」


 俺を指差して、抗議してきた。


「おっと。どうしようか、リオ。相手はこう言っているが」


 頭をかきながら、リオに相談する。


 リオは、ジョイスの正面に立った。


「わたくしが頼んだのです、ジョイス。ここは落ち着いてくださいませんか?」

「姫がおっしゃるなら」


 屈強な女騎士も、リオの前ではタジタジだな。

 決して、悪い女性ではないのだろう。


『ったく。素直じゃねえんだから』

「お前は黙っていろ、シャドウ号!」

『へいへい。んじゃ、一休みさせてもらうぜ。ヒナト!』


 シャドウ号が、俺に問いかける。


『例の件、よく考えておいてくれよな!』


 へへ、と笑いながら、シャドウ号がジョイスを置いて奥へ進む。

 聖獣用の寝床があるようだ。


「みなさん、今日はお疲れさまでした。明日も大変でしょうが、よろしくお願いします」


 リオが頭を下げると、兵隊たちが一礼して宿舎へ。


「姫先程は大人げない態度を取って、申し訳ありません」


 ジョイスが、姫に非礼を詫びた。


「いえ。気が立っていたのでしょう。わたくしのせいです。最前線で戦っているみなさんに対して、配慮が足りませんでした。ごめんなさい」

「姫様が頭を下げなさることは、ありません。私がワガママだったのです。お許しを」

「ありがとうジョイス。もうおやすみになって」

「はい、姫様もお身体をお休めになさってください」


 一礼して、ジョイスも宿舎へ向かう。



 正直、俺も休みたい。

 想像以上に、疲労がひどかった。今頃、戦闘の反動が来たのだろう。


「勇者様も、お疲れでしょう。詳しいお話は後日。今日はひとまず、おやすみください」

「すまん、そうさせてもらう」


 手頃な寝床は……あった。


「ここが一番、落ち着くなぁ!」


 手頃な場所を見つけて、俺は横になる。


「勇者様、どうして倉庫に横になっていらして!?」


 そう、俺は倉庫を寝床に決めたのだ。

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