第11話 オオカミ聖獣と、騎士

『へっ、どいつもこいつもメカ相手にビビりやがってよぉ』


 全身機械でできたオオカミが、俺の側に現れた。

 なんのためらいもなく、焼き魚入りのおにぎりに近づく。


『悪いな。みんな、お前を信用していないんだ。機械のモンスターばっか相手にしてきたからな』

「なるほどな。敵と思われているわけか」


 激闘だったのなら、仕方ないのかもしれない。 


『もらってくぜ? 聖獣でも、食うのは構わねえよな?』

「ああ。もちろんだ」

『じゃ遠慮なく……うん、コイツはうめえ! あんた、やるじゃねえか!』


 オオカミが、俺の作ったおにぎりにパクついた。


「ありがとう。食ってもらえて安心だ」


 システムボイスが、通信してきた。


[あなたも、お召し上がりください]

「俺も食えるのか?」


 機械だから、食事は不要と思っていたんだが。


[もちろんです。聖獣と同じ体内構造ですから]

「ああ、そうか。そうだったな」


 聖獣たちは精霊っぽかったから、気にもとめなかった。


「うん。うまい!」


 エネルギーが補給できる程度かと思ったら、味も感じられるじゃないか。これはいいな。


「勇者様、戦いが終わったらおにぎり屋さんを開きましょう。それで生きていけますよ!」

「言いすぎだろ、さすがに」


 俺はリオと談笑する。


「私ももらおうか」

「どうぞどうぞ。そのために作ったんだからな!」


 まず、国王に食べてもらうことを忘れていた。


「おお。これはすばらしい。皆も手に取るといい。これは見事な味である!」


 これだけメシテロを見せつけられて、手を出さない騎士なんていない。

 みんな、競うようにおにぎりを頬張った。


「悪かったな、勇者殿!」


 騎士の一人から、礼を言われる。


「いいんだ。みんなの腹を満たすことができれば、それで十分だ」


 俺は騎士から手を差し伸べられ、握手に応じる。


『まあ、きっかけ作りゃあ、こんなもんよ』

「ありがとう。これでみんなの腹も満たされる。俺の名はヒナトだ。ダイデンドーのコアをやっている」

『よく聞くと、すっげーパワーワードだな。巨大ロボのコアなんてよぉ。ヘッヘッヘ!』


 オオカミ型聖獣が、ゲラゲラと笑う。


『オレはガーフィールド男爵家に仕える聖獣、【シャドウバロン】ってんだ。シャドウ号と呼んでくれ」


 オオカミが、自己紹介をする。なるほど、男爵の部下だからバロンね


『んでぇ、オレの飼い主なわけだが……』


 シャドウ号は、一人の女性騎士の前まで進む。


 黒髪で片方のメカクレショートだ。

 全身を覆うバトルスーツは、露出が際どい。

 クール、いや、冷たい印象を受ける。


 その女性騎士だけは、俺たちの料理に口を運ばない。


『こいつが、ジョイス・ガーフィールド。オレの飼い主で、男爵家の第一王女だ。おいジョイス、スネてんじゃねえよ。食わねえと、身が持たねえぞ』

「機械の施しは、受けない」


 女性騎士は、頑なに拒絶する。


『悪いな。お姫がダイデンドーにご執心になって以来、ずっとこんな調子なんだ』


 シャドウ号によると、他の騎士たちもダイデンドーにあまり好意的ではないらしい。


「どうしてなんだ?」

『仕事を取られると思っているのです』


 ハンドレオンが、話を引き継ぐ。


『ジョイスは、近衛兵なんだ。だからずっと、自分たちがお姫を守ってきたと自負している。しかし、お姫はなにかといえばダイデンドーってなぁ。それで、仲が険悪になっちまった』


 シャドウ号が、詳細を語ってくれた。


 リオも、ジョイスにどう声をかけていいのかわからない様子だ。

 自分のせいだからな。


 敵も機械生命体なため、機械に対していい印象を持っていないという。 


『いいかげんにしろよ、ジョイス。あんまスネてると、鞍替えしちまうぞ』

「好きにしたらいい。私は止めない」


 斬り裂くような目で、ジョイスはシャドウ号を睨む。


『そうかよ。じゃあ勝手にさせてもらうぜ!』


 シャドウ号は『んだよ』と、俺に向き直った。


『どうだいヒナト、オレと組まねえか?』

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