第10話 焼き魚マヨおにぎりで、ねぎらい

「いやあ、まさかこの歳まで生きて伝説のダイデンドーをお目にかかれるとは、光栄ですぞ」


 柔らかい物言いで、術士サティが微笑む。


「そうか。役に立てるといいんだがな」


 話していると、表が騒々しくなった。何かあったのか?


「国王様が、お戻りになりました」


 その場にいた全員が、ひざまずく。


 俺も、姿勢を正したほうがいいな。


 金髪のイケオジが、白い馬に乗って現れた。

 身体は背中のマント同様ボロボロだ。激しい戦いを終えたのだろう。


「みんな、おもてを上げてくれ。北の敵砦は陥落した。安心してほしい」


 国王がいうと、基地内が歓声に包まれた。


「しかし、まだ北東のドワーフとの交流が難しい。敵の攻撃がドワーフにまで及べば、これ以上の戦力は期待できなくなる。なんとしてもドワーフへの襲撃を阻止するのだ!」


 王の呼びかけに、基地のスタッフが雄叫びを上げた。


「お父様、こちらが」

「おお。あなたがダイデンドーですかな?」


 国王が、馬より降りる。ガッシリした体型の人物だ。


「ワシがこのデッカー王国の総司令、ライナスである」


 ライナス王が、俺に頭を下げた。


 サティら魔術師隊が、国王に治癒を施す。


「俺のことは、ヒナトと呼んでくれ」

「ではヒナトよ、貴君の働きのおかげで、敵戦力を大幅に削ぐことができた。兵を代表して、礼を言う。宴の準備を行うので、しばし待たれよ」

「いや。俺のことはいい。それより」


 俺は、兵隊に目を移す。


 みんな、憔悴しきっていた。

 尽きることのない戦いに、疲弊しているのだろう。


「兵を労いたい。この場で調理とかしても、大丈夫だろうか?」


 荷台に載せた大量の魚を、俺は王に見せた。


「お手伝いします」


 リオノーラ姫が、腕をまくる。


「助かる、リオノーラ姫。この世界に、米はあるか?」

「ございます。用意致しましょう! それと」

「ん、どうしたリオノーラ姫?」

「どうか、わたくしのことはリオとお呼びください。父も、リオと呼びますので」


 姫と呼ぶ必要もないと。


「わかった。ではリオ、米を用意してくれ」


 次に、俺はシステムボイスに尋ねる。


「トリセツさん。俺の身体を、ダウンサイズできるか?」

[可能です。非戦闘時は、身体を人間大にまで小さくなれます。そうやって、過度の消耗を極限まで押さえられます]


 ただし、まったく戦闘力はなくなってしまうらしい。


 いいさ。今から俺は、料理人だからな。


 それに俺は、必要以上に人々を怯えさせたくない。


 俺は、身体を小さく縮めた。本当に、人間サイズになったぞ。


「準備完了です」


 作業ベンチを改造して、リオは簡易かまどまで用意してくれた。


「よし、調理開始だ」


 魚を焼いて、身をほぐしてマヨネーズと絡める。

 それを具材にして、握り飯を作っていく。


「あちち、熱いですね!」

『姫様、しっかり』


 リオも悪戦苦闘しながら、おにぎりを形作っていた。


「よし、完成だ」


 シーフードマヨにぎりの、できあがりである。


 ロボットの手だから、うまくできないかもと思ったが。


「さあ、食べてくれ!」


 俺たちの陽気さに対して、騎士たちの反応は鈍い。

 そりゃあそうだろうな。

 俺だって、得体のしれないロボットから差し入れなんてされたら。


「えっとぉ、お、おいしいですよ。ほら。はむはむ」


 怖がらせないように、まずはリオ自ら毒味をする。


「勇者様、全部食べてしまってもいいでしょうか?」

「いや……さすがにダメだろ」


 これは、戦ってきた騎士たちのものだ。


 彼らをねぎらうために、作ったんだけどな。


 騎士たちは、戸惑っている。

 食べる気力すらないのか、それとも俺のことを嫌っているのだろうか。


 リオのいうとおり、全部食べてもらおうかなと思いかけた、その時だった。


『なーに、全員シケたツラしてやがんだよ?』


 機械音の混じったオッサン声が、基地に響く。

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